車に戻る事もせずに、俺はただひたすら暗い住宅街の中を走っていった。
走って走って、息が切れて、胸が苦しくても走り続けた。

 街頭の明かりだけが目に入る。

吐けるだけの息を吐いて、とにかく足を前へと動かした。

そうしていないと、頭がおかしくなりそうだったからだ。

俺は、さっきの光景が頭の中から離れず、走りながら頭を振る。

 ルキアが殴り倒していた老人は助かったのだろうか。俺はそんな事ばかり考えていた。


なんで、俺はいつもやる事全て上手くいかない。

俺の運命は呪われているのか………。

 どれくらい走っただろうか?来た事のない駅まで辿り着いた。
 俺は、着ていたジャンバーとキャップを駅のトイレのゴミ箱に捨てた。
トイレの鏡で自分の顔を見ると、真っ青で白い顔をした俺が、こっちを見ていた。
汗をびっしょりかいている。
俺はトイレの手洗い場の水で、顔を洗った。

 とにかくここから早く離れよう。

 俺は、改札に向かって次にくる新宿行きの電車に乗っていく。
俺は椅子が空いていたので、腰をかける。
しばらくすると電車が発車した。
窓からぽつぽつと民家の光が通り過ぎて行く。

 自分の手を見ると、小刻みに震えている。
それを隠すように俺は右手で左手を抑えつけた。
周りを見れば何の変哲もない、普通の日常だ。
家路につくのか、疲れた顔をしたサラリーマンやOL、学生。

 その中に俺は溶け込んでいく。
、、、いや?溶けこめていない。完全に俺だけ殺気だっている。電車の窓に映る、別人のように絶望した自分の顔をずっと眺めていた。