強盗は三人で行うように指示が出ていた。
俺と、ルキア、車を運転していた男だ。
車を運転していた男は、日本人ではなかった。
東南アジア系の日本語もあまり話せないような男だった。

 そいつは自分の事を「アイ」と名乗った。ルキアも俺も、そいつとは初対面だった。強盗に入る家は、昔ながらの大きな日本家屋の家だった。
八十代後半のじいさんが、一人暮らしをしていて、家族には皆先立たれたので、完全に一人者だった。

 まず、アイが宅配業者の振りをして家に押し入る。
ヨボヨボのじいさんだから、拘束するのは簡単だろう。

 その間、俺とルキアで金を盗む。

金のありかはわかっている。この家には地下室があり、そこに金を置いているようだった。
この家の間取りから全てが組織によって調べあげられていた。ルキアが言っていたように、三十分内で全てを終わらす。 長くなれば、捕まる可能性が高くなるからだ。
 俺は自分の膝がガクガクと小刻みに震えているのがわかる。まだ肌寒い三月だというのに、俺はぐっしょりと汗をかいていた。

 住宅街は、人が一人も通らず、車通りもない。
アイが宅配業者のような服を着てチャイムを鳴らした。キャップを目深に被り、マスクをしている。
暫くすると中の電気がつき、腰の曲がった老人が出てきた。

 アイの仕事ぶりは完全にプロだった。老人が出てきた瞬間に、中に押し入り、軽く鳩尾を殴って縛りあげた。老人が声をあげる隙もなかった。
すぐさま猿ぐつわをされた老人は、リビングの床に転がり、出せない声で何か訴えかけていた。

 俺とルキアは中に入り、地下室に向かう。
家の間取り図も事前に知らされていたので、広い家だが迷う事なく俺達は、地下へ行った。

 心臓がドクドクと物凄い音をたてているのがわかる。俺は必死だった。ルキアは慣れているのか、余裕すら感じた。どうせ、また薬でもやってきたんだろう、妙なテンションで地下へと走る。

 地下はガランとした十畳くらいの部屋が一部屋だけあった。その中に大きなキャビネットの棚があり、俺達は一つ一つキャビネットの引き出しを開けていった。

 「何処にかくしやがったんだ〜」

 ルキアが楽しそうに言う。俺はとにかく一刻も早く、この家から出たかったので何も言わず、無我夢中で引き出しを開けていった。
キャビネットの中は、資料みたいな物や、よくわからない本が殆どだった。
 中には貴金属類もあったので、ルキアがバックに入れていた。

 「あはは、真二あったぞ。ほらっ」

そう言って、ルキアが俺に一万円札の束を投げつけてくる。信じられない光景だった。
キャビネットの一番大きな引き出しに、無造作に万札の束がいれられていた。

 軽く一千万はありそうだった。
なんでこんな大金を鍵も付けずに、無造作に引き出しに入れておくのか全く理解ができなかった。

「あはは、、、。あははは、、。すげーなこれ」

 ルキアが笑いながら、札束をどんどんバックに投げ入れる。俺も必死にバックに詰めて行く。
札束をバックに投げ入れて、俺達は一階へ戻る。
一階へ戻ると、アイが老人を見張っていた。

 「全部詰めてきたぜ。すげー大金だ!今までで一番かもしれないぜ」

 ルキアは、おぼつかない足取りで歩きながらアイに報告する。

家に入ってから、まだ十分足らずだ。
俺はとにかく、早く家から出たかったので、ルキアを促す。

 「早く行こうぜ!何してるんだ!」

 俺がそう言うと、ルキアは一階の棚の引き出しも開けだす。

「まだあるだろ……これだけじゃないだろ、もっと金目のやつがあるはずだろ…」

そう言って戸棚を開けていく。完全に目がいっちゃっている。

(何してんだよ!)

 俺が、そう思ってルキアに言おうとした時、アイが俺に目配せをした。
先に逃げようと言ってるようだった。
俺と、アイが逃げようとした瞬間、物凄い大きな音で防犯ブザーが鳴った。

えっ、、、?


 俺は軽くパニックに落ち行った。何処から鳴ってるんだ?

とにかく早く止めなきゃいけない。そう思って辺りを見渡す。

 アイとルキアもキョロキョロしている。

 「うるせーな!!何処だよ!!何処からなってるんだよ!」

 ルキアがキレている。
そして、音の出所がわかった。老人から音がしていた。多分ズボンの後ろのポケットに、ブザーを入れていたのだろう。後ろで手を縛られていたので、ポケットの中に手が入れられたんだ。

 「逃げるぞ!!」

俺が言った。俺とアイが玄関に向かった時、ルキアが突然叫びだした。

「うるせーじじい!!!邪魔するなーー!!」


 それは一瞬の出来事だった……ルキアは縛られて動けない老人を殴りはじめた。
 
 「お前何やってんだよ!死んじまうぞ!」

俺がそう言って止めに入っても、ルキアは殴るのを辞めなかった。じいさんが、苦痛に顔を歪め、口から血が出ていた。

ルキアはまた一人でクックッ………と肩を震わせて笑っていた。


俺は全身から血の気が引いていくのがわかった。


こいつは、本当にいかれちまっている……。
ルキアを見て、俺はそう思った。


 ルキアは動かなくなったじいさんを見て、またぶつぶつ言いながら、リビングの棚を漁り出した。 

 俺はそんなルキアを呆然と眺めていると、アイが無理やり俺の腕を引っ張った。
俺は、力が抜けそうな身体をなんとか奮い立たせて、ルキアをおいて、玄関の外へ出た。
盗んだ現金のバックを置いてきてしまった事を思い出すが、もう戻れなかった。


遠くからサイレンの音が聞こえてきたからだ、
アイが俺に叫んだ。



「逃げろー!!!!」




アイの声を聞いたのは、この時が初めてだった。



 俺は、その声を聞いて無我夢中で走りだした。
暗い住宅街の暗闇の中を、ひたすら走って走って逃げていた─────