「シンジ、おはよう」
起きると、玲が俺の顔を覗きこんでいる。
いつのまにか俺は眠ってしまったらしい。
玲はシャワーを浴びたのか、シャンプーの良い香りがしていた。
「おはよう」
俺がそう言うと、玲が俺に軽くキスをして、洗面所に髪を乾かしにいってしまった。
ついに入賞式の日が来た。
玲も朝から緊張していたが、俺も緊張していた。
とりあえず、東京についてから玲の体調は良さそうなので少し安心していた。
発作が出なくても吸引はしていたが、今のところ、船で起きた小さな発作以外は出ていなかった。
俺達はコンビニでご飯を買って、ホテルで朝食を食べた。
けれど玲は珍しく食事が進まないようだった。
「なんか緊張して胸の辺りがつかえる感じ、わかる?胸がいっぱいで何も入らない」
「まあ。しょうがないよな。今日は沢山取材もくるんだろ?カメラも凄いだろうし、緊張するのが当たり前だよ」
「シンジは舞台に上がる時に緊張しないの?」
「するよ。当たり前だろ。毎回物凄い緊張だよ、、、まあ、それ以上に楽しみだけどな。楽しみが勝つ」
俺がそう言うと、玲はぱっと表情を明るくさせた。
「楽しみかぁ!そうだね、楽しまなきゃ損だよね!こんな経験二度とないかもしれないしね」
そう言って止まっていたサンドイッチを食べる手を動かして頬張る。
玲なら賞をとるチャンスなど沢山あるだろう。けれどわざわざ島から出て授賞式に出るかと言われれば、体調の事を考えたらこれが最後かもしれない。
玲にとって、完璧で最高な一日にして欲しかった。
一生忘れられないような、、、そんな一日にして欲しかった。
ホテルを出ると、梅雨明け直近のどんよりとした天気だった。
もうすぐ本格的な夏が東京へもやってくる。
ちょっと歩いただけでも汗ばむような、じめっとした気温だ。
蝉が今か今かと鳴くのを待っているような気候だった。
俺は一応帽子を被って、サングラスをして外へ出た。
玲と歩いて国立の美術館まで行く。
「東京にもこんなに木がいっぱいあるんだね」
「意外にも公園とか自然はあるんだぜ?」
玲は大きな美術館の建物が見えてきた瞬間に走り出した。
「シンジーこれだよー!!凄い大きい!」
「玲!だから走るなって!何度も………」
そう言った瞬間に俺は誰かに腕を掴まれた。
自分の腕の捕まれた先を見ると、そこには三人の男がいた。
俺は瞬時に自体を理解した。
───捕まった、、、。
「警察だ。小峯真ニで間違いないね?」
俺は頭が真っ白になった、、、。
まだ捕まるわけにいかなかった、、、。
玲の入賞式を見届けてから、捕まりたかった。
最後にちゃんと別れが言いたかった。
玲が、俺の様子に気がつき、叫んでくる。
「シンジ!!シンジ!!」
そう言って駆け寄ってくる。
俺は玲を巻き込んだらまずいとすぐに思った。
「警察まできてくれるね」
腕を掴んだ警官が俺に言う。
そして、逃げられないように、反対側の腕を違う警官に掴まれる。
「ちょっと待って!シンジ!」
玲が連行されるに俺に向かって、叫ぶ。
けれど、俺に近づけないように警察が止めている。
玲が顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺の名前を何度も叫ぶ。そして、制止する警察をすり抜けようとして、玲が転んだ。
俺は思わず「玲!!!」と叫んだ。
美術館から、外の騒がしさに気がついた折末さんが出てきた。
折末さんが直ぐに倒れた玲に気がついて駆け寄る。
「玲さん!大丈夫ですか?」
玲は答えられずに、俺の名前を呼んで泣いている。
折末さんは、すぐに自体に気がついて、俺の顔を見た。
このまま、終わりなのか?
このまま一生会えなくなるのかもしれないのか?
結局悲しませて終わりじゃないか。
ちゃんと別れも告げず、何もしてやれなかった。
俺は後悔だけが胸の中で広がっていく。せめて最後くらい笑顔で別れたかった。
俺は、無理矢理歩かされていた足を止めた。
「何をしている。歩け」
一人の警官が俺に言ってくる。
俺は後ろを振り返った。
玲が泣きながら折末さんに抱きかかえられていた。
そんな顔がみたいんじゃない…………
そんな顔にさせたかったわけじゃない───
頭の中で蘇る。
玲と島で出会った日の事。
玲がシャッターアートを描いた日の事。
一緒に出店でホットドッグを売った日の事。
俺が玲を好きだと気づいた日の事。
玲のおかげでまた、ギターを弾けた日の事。
野外フェスに玲が見に来てくれた日の事。
最初で最後のデートをした日の事。
俺はずっと玲に出会ってから幸せだった、、、、。
玲のおかげで、俺はまた人生をやり直そうと思えたんだ。
生きていて欲しい、、、。
元気でずっと笑って絵を描いていて欲しい。
自分の事以外でこんなに何か強く願うのは初めてだ。
俺は玲に向かって思いっきり叫んだ。
「生きろ────!!!!」
そして、大きく手を振って笑った。
俺が玲に本当に言いたい事は、もうこれしかなかった。
いや、、、?自分自身にかけた言葉だったのかもしれない。
玲がびっくりして俺の顔を見るが、泣き腫らして顔がぐちゃぐちゃだ。
これから授賞式なのに、悪いことをした、、、。
これが精一杯の俺の別れだった。
何も上手くなんかいかない。
振り返れば、俺の人生はいつもそうだ。
起きると、玲が俺の顔を覗きこんでいる。
いつのまにか俺は眠ってしまったらしい。
玲はシャワーを浴びたのか、シャンプーの良い香りがしていた。
「おはよう」
俺がそう言うと、玲が俺に軽くキスをして、洗面所に髪を乾かしにいってしまった。
ついに入賞式の日が来た。
玲も朝から緊張していたが、俺も緊張していた。
とりあえず、東京についてから玲の体調は良さそうなので少し安心していた。
発作が出なくても吸引はしていたが、今のところ、船で起きた小さな発作以外は出ていなかった。
俺達はコンビニでご飯を買って、ホテルで朝食を食べた。
けれど玲は珍しく食事が進まないようだった。
「なんか緊張して胸の辺りがつかえる感じ、わかる?胸がいっぱいで何も入らない」
「まあ。しょうがないよな。今日は沢山取材もくるんだろ?カメラも凄いだろうし、緊張するのが当たり前だよ」
「シンジは舞台に上がる時に緊張しないの?」
「するよ。当たり前だろ。毎回物凄い緊張だよ、、、まあ、それ以上に楽しみだけどな。楽しみが勝つ」
俺がそう言うと、玲はぱっと表情を明るくさせた。
「楽しみかぁ!そうだね、楽しまなきゃ損だよね!こんな経験二度とないかもしれないしね」
そう言って止まっていたサンドイッチを食べる手を動かして頬張る。
玲なら賞をとるチャンスなど沢山あるだろう。けれどわざわざ島から出て授賞式に出るかと言われれば、体調の事を考えたらこれが最後かもしれない。
玲にとって、完璧で最高な一日にして欲しかった。
一生忘れられないような、、、そんな一日にして欲しかった。
ホテルを出ると、梅雨明け直近のどんよりとした天気だった。
もうすぐ本格的な夏が東京へもやってくる。
ちょっと歩いただけでも汗ばむような、じめっとした気温だ。
蝉が今か今かと鳴くのを待っているような気候だった。
俺は一応帽子を被って、サングラスをして外へ出た。
玲と歩いて国立の美術館まで行く。
「東京にもこんなに木がいっぱいあるんだね」
「意外にも公園とか自然はあるんだぜ?」
玲は大きな美術館の建物が見えてきた瞬間に走り出した。
「シンジーこれだよー!!凄い大きい!」
「玲!だから走るなって!何度も………」
そう言った瞬間に俺は誰かに腕を掴まれた。
自分の腕の捕まれた先を見ると、そこには三人の男がいた。
俺は瞬時に自体を理解した。
───捕まった、、、。
「警察だ。小峯真ニで間違いないね?」
俺は頭が真っ白になった、、、。
まだ捕まるわけにいかなかった、、、。
玲の入賞式を見届けてから、捕まりたかった。
最後にちゃんと別れが言いたかった。
玲が、俺の様子に気がつき、叫んでくる。
「シンジ!!シンジ!!」
そう言って駆け寄ってくる。
俺は玲を巻き込んだらまずいとすぐに思った。
「警察まできてくれるね」
腕を掴んだ警官が俺に言う。
そして、逃げられないように、反対側の腕を違う警官に掴まれる。
「ちょっと待って!シンジ!」
玲が連行されるに俺に向かって、叫ぶ。
けれど、俺に近づけないように警察が止めている。
玲が顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺の名前を何度も叫ぶ。そして、制止する警察をすり抜けようとして、玲が転んだ。
俺は思わず「玲!!!」と叫んだ。
美術館から、外の騒がしさに気がついた折末さんが出てきた。
折末さんが直ぐに倒れた玲に気がついて駆け寄る。
「玲さん!大丈夫ですか?」
玲は答えられずに、俺の名前を呼んで泣いている。
折末さんは、すぐに自体に気がついて、俺の顔を見た。
このまま、終わりなのか?
このまま一生会えなくなるのかもしれないのか?
結局悲しませて終わりじゃないか。
ちゃんと別れも告げず、何もしてやれなかった。
俺は後悔だけが胸の中で広がっていく。せめて最後くらい笑顔で別れたかった。
俺は、無理矢理歩かされていた足を止めた。
「何をしている。歩け」
一人の警官が俺に言ってくる。
俺は後ろを振り返った。
玲が泣きながら折末さんに抱きかかえられていた。
そんな顔がみたいんじゃない…………
そんな顔にさせたかったわけじゃない───
頭の中で蘇る。
玲と島で出会った日の事。
玲がシャッターアートを描いた日の事。
一緒に出店でホットドッグを売った日の事。
俺が玲を好きだと気づいた日の事。
玲のおかげでまた、ギターを弾けた日の事。
野外フェスに玲が見に来てくれた日の事。
最初で最後のデートをした日の事。
俺はずっと玲に出会ってから幸せだった、、、、。
玲のおかげで、俺はまた人生をやり直そうと思えたんだ。
生きていて欲しい、、、。
元気でずっと笑って絵を描いていて欲しい。
自分の事以外でこんなに何か強く願うのは初めてだ。
俺は玲に向かって思いっきり叫んだ。
「生きろ────!!!!」
そして、大きく手を振って笑った。
俺が玲に本当に言いたい事は、もうこれしかなかった。
いや、、、?自分自身にかけた言葉だったのかもしれない。
玲がびっくりして俺の顔を見るが、泣き腫らして顔がぐちゃぐちゃだ。
これから授賞式なのに、悪いことをした、、、。
これが精一杯の俺の別れだった。
何も上手くなんかいかない。
振り返れば、俺の人生はいつもそうだ。



