部屋の荷物を片付けるのは簡単だった。
俺は殆ど何も持たずに、着の身着のままでこの島へ来たのだ。
 東京で住んでいたアパートは、物で溢れてぐちゃぐちゃだった。
結局、たいして物なんかなくても生きていけるんだと、この島へきてわかった。

 島を離れる事は辛いが、俺の気持ちはスッキリしていた。
俺はずっと不安だったのかもしれない。
島での生活が思いの他楽しかったので、ずっとこの幸せが続いてほしいと思っていた。
 けれど、いつかは捕まるんじゃないかという恐怖と、自分の犯した罪の罪悪感で眠れない夜が続いていた。


いっそ捕まってしまった方が楽だ。


 逃げるからどんどん恐怖は大きくなっていくんじゃないかと思った。
全てを受け入れてしまえば楽になれる気がした。
玲を悲しませる事になっても、、、。

 その事だけが心残りだった。
俺が島を出て、玲に新しい恋人が出来たとしても、俺は玲が幸せならそれで良いと思った。

 こんな犯罪者なんかの俺より良い男は、世の中に星の数程いるだろう。
俺じゃなくてもいい…………。

 惚れっぽい玲の事だから、きっとまたすぐ新しい恋をするだろう。
けれど俺は、、、きっと、玲以外の女なんて考えられない。
 そもそも、玲と別れたら恋愛する気もない。
玲みたいな女にめぐり会える事は二度とない気がしていた。

 目を閉じると浮かんでくるのは、玲が大きなキャンバスに向かって、一心不乱に筆を走らせる姿だ。

 玲の気迫に満ちた表情も、大胆に描く線も、全てが輝いて、あんなに美しい光景は、この世に一つとして同じ物はないと思った。