「私、こんなに海に囲まれて暮らしてるのに、足までしか海に入った事がないんだよね。
一度でいいから頭まで海に潜ってみたいなぁ」

 「人の事は海にぶん投げるのにな。俺はあの時死ぬかと思ったけどな」

 俺も海水浴なんてした事がなかったから、玲に海に落とされた時は、本気で死ぬかと思った。
大体、初心者がモリなんかで魚をつくなんて不可能だ。
 思い返してみると、玲は本当にむちゃくちゃだ。

 俺達はレストランで食事をした後、高台にある島唯一のカトリック教会へ来た。
何でも、玲は小さな頃からこの教会へ礼拝に来ていたらしい。
 熊さんが神にもすがる気持ちで、この教会に来て玲の病気が治るように祈っていたらしい。

 俺の母もカトリック教徒だったので、昔何回か教会に連れられた事があった。
けれど母が家を出てからは一度も足を運んだ事はなかった。

 「この教会はさ、ステンドグラスが凄く素敵なんだよ。シンジも見たら感動すると思うよ」

 玲がそう言いながら、教会の扉を開く。
扉を開けた瞬間目の前に聖母マリアの大きなステンドグラスが見えた。
ステンドグラスの下は全面ガラス張になっていて、教会の後ろにある青い海が見えていた。

 「凄いな、、、」

 俺は、そのステンドグラスの迫力と教会の雰囲気に圧倒された。
俺と、玲は座ってステンドグラスを眺めた。
玲が十字を切ってお祈りしている。
何を祈っているのか、玲は随分と長い間祈っていた。

 教会の外に大きなブランコがあって、玲が「一緒に乗ろう!」と言うので、二人で乗った。

 ブランコは海岸の方へ向けて置いてあるので、漕ぐと海の上を飛んでいるみたいで少しスリルがあった。

 「シンジ、今日は楽しかったよ。初デート、ありがとう」

 「ああ。たまにはいいかもな、こういうのも。
ホテルだといつもイゾンがいるしな」

 俺がそう言って笑うと、玲が俺の方を向いていきなり真剣な表情で言ってくる。

「シンジ、話しがあるの」