そのような者が玄浩然の娘であるという理由だけで賢妃の座に座ることを妬み、疎み、憎しみを隠しきれなくなった者が出てきたのだろう。

「賢妃の死が自死のはずがない」

 浩然は翠嵐の死の裏側になにかが潜んでいると勘付いていた。

「後宮妃による暗殺の可能性がもっとも高いだろう」

 浩然は後宮の仕組みに詳しい。

 女性だけの花園は毒花も多く、四夫人が担う役目を理解していない者たちより、四夫人が害されることも珍しくはない。

 それほどに四夫人の価値は落ちている。

 後宮は陰謀の花が咲く場所だ。

 その花は毒々しくも美しく、華麗な姿で他人の命を貪り食う。

 その花に翠嵐は負けた。

「ご丁寧に自殺に見せかけたものか、それとも、賢妃の死の真相を暴けば皇帝が非難されるような目に遭うのか。どうせ、そのような理由による自死扱いだ」

 浩然はため息を吐いた。

 それは命を奪われた翠嵐を思ってのことではない。

 玄家の立場を憂いているだけである。

「香月」

「はい。父上」

「お前は私の最高傑作だ。香月が次期当主となれば、玄家の栄華は凄まじいものとなるだろう」

 浩然は香月の才能を認めていた。

 すべては玄家の為となると言い聞かせ、苛烈な修練を香月に課していたのは、香月の才を信じていたからこそである。

「父上の娘として当然のことでございます」

 香月は浩然を敬愛している。

 才能のある我が子に対し、浩然は当主としては厳しい修練を課すものの、父親としては、我が子がかわいくて仕方がないのだということを隠しもしない子煩悩な一面も見せてきた。

 それは子どもたちの敬愛を一身に向けさせる為だ。

 父親の判断は正しい。

 父親の言葉は正しい。

 幼い頃から親の愛情と共に刷り込まれてきた価値観は、子どもたちの道標となる。

「父上、あなたのおかげで私は幸せです」

 香月は心の底からの言葉を口にする。