もしかしたら、用事は終わったと本邸の外に出されたかもしれない。

「翠蘭の死は聞いたか」

「はい。翠蘭姉上は自死されたと聞きました」

「そうだ。後宮ではアレを自死として処理をしたようだ」

 浩然は苛立ちを隠すように指で髪を弄る。

 ……翠蘭姉上の死を嘆いているわけではないようだ。

 浩然にとって、翠蘭は都合良い存在だった。

 玄家の敷地内に置いていたのは、いずれ、なにかしらの形で利用しようと思っていたからだろう。

 ……父上は厳正な方だ。玄家の役に立たない者には、父上から愛される資格を与えない。

 香月は嫌になるほどに知っている。

 思い出したくはない五年前の記憶だ。しかし、忘れることもできなかった。

 ……母上は父上よりも厳格だ。玄家の名に相応しくないと判断すれば、実の子さえも殺してしまえるのだから。

 香月の六歳下の妹は、気功の才がなかった。武術の才もなかった。それなりの名門に嫁がせて、相手の家を思いのままにできるような美貌にも恵まれなかった。その為、僅か五歳の時にその首を刎ねられてしまった。

 六歳下の妹の首を刎ねたのは、香月たちの実母、(シュエン) 玥瑶(ユエヤオ)である。

 自らの腹を痛めて産んだ三女の首を迷うことなく刎ね、命を落とした下手人たちの墓地に捨てておくようにと指示を出した姿を忘れることができない。

 ……父上も母上も、翠蘭姉上の死を悲しんではくれないだろう。

 翠蘭が命を落としても浩然の胸は痛まない。

 幼い娘である(シュエン) 春鈴(シュンリン)の死であっても嘆かなかったのだ。疎んできた妾の娘が死んだところで痛むような心を浩然は持ち合わせていなかった。

 いてもいなくても変わらない存在ならば、利用価値があっただけでも喜ばしいことだと思っていたようだ。

 翠蘭は、浩然の妾が産んだ娘であり、見た目の整った女性だった。後宮でもその見た目は浮くこともなく、一時的な注目を集めることもできたはずである。

 しかし、それは玄家の娘としての教育が施されていた場合に限る話だ。

 翠蘭は知識が足りなかった。

 気功を操ることもできず、術の一つも使えない。

 身を守る術さえもない。