後宮妃は木犀の下で眠りたい

「陛下!!」

 藍洙は叫んだ。

 喉が裂けてもかまわないというほどの大きな声で俊熙を呼ぶ。

「私でございます! 陛下の黄藍洙でございます! 陛下、陛下、陛下! どうか、私を見てくださいませ!」

 藍洙は必死だった。

「陛下! 私はここにおります!」

 しかし、俊熙の気を引くことはできなかった。

「連れて行け」

 俊熙は宦官に指示を出す。

 その言葉を聞き、宦官は藍洙を強引に立たせて連れて行こうとする。

「陛下。黄昭媛様は冷宮でよろしいでしょうか」

「いや。地下牢でかまわない」

「承知いたしました」

 宦官は淡々と答えた。

 その言葉を聞き、藍洙の顔色が真っ青に染まった。

「陛下……?」

 藍洙は恋に盲目だった。どのようなことをしたとしても、俊熙に愛されているべきなのは自分だと信じ切っていた。

 それなのに、俊熙は藍洙を切り捨てた。

 妃にしたことが間違いだったというかのようだった。

 後宮妃が罪を犯した時には冷宮に入れられるのが通例である。地下牢に繋がれるのは罪人であり、皇帝の妃がいるべき場所ではないからだ。

 そのことは藍洙も知っていた。

「私は、昭媛です。陛下。陛下の妃です」

 藍洙の声は震えていた。

 宦官が強引に連れて行こうと力を込めたところ、藍洙は抵抗しなかった。しかし、視線だけは俊熙に向けられたままだ。

「陛下」

 藍洙の目から涙が零れた。

「私は、陛下を、愛しておりました」

 藍洙の言葉は俊熙の耳には届くが、心には響かない。

 それでも、愛の言葉を口にしなければいけなかった。藍洙もそれが最後の機会になるとわかっていたのだろう。
 返事をもらえないまま、両側から宦官に取り押さえられる形で玄武宮から立ち去っていく姿は別人のようだった。