後宮妃は木犀の下で眠りたい

「だから、玄香月も呪い殺そうとしたのに」

 藍洙は自白した。

 それは玄武宮の門が開かれる合図の言葉でもあった。前触れなく開かれた門から複数の宦官たちが藍洙の元へと向かい、容赦なく藍洙の身柄を拘束した。

 ……呪術の類が終われば、黄昭媛の独断。

 香月はそう簡単には終わらない気がしていた。

 ……終わらなければ、黄昭媛を操っていた者がいる。

 藍洙の行動は私怨によるものだ。それだけで問題が解決するとは思えなかった。

「なにをするの!? 私は陛下の寵妃よ! 宦官ごときが触らないでちょうだい!」

 藍洙は喚いた。

 なぜ、縄できつく縛られて捕縛されているのか、理解できなかった。

 後宮を行き来できるのは皇帝陛下か宦官だけだ。その知識はあったのだろう。

「俺の寵妃は玄香月だけだ」

 俊熙は宦官の後ろにいた。

 声をかけられるまで藍洙は気づかなかったようだ。声を聞き、途端に目の色を変えた。助けに来てくれたのだと疑いもしない顔をする藍洙に対し、俊熙は冷たい視線を向けていた。

「陛下!」

 藍洙は俊熙に手を伸ばそうとして、宦官に取り押さえられる。

 容赦なく地面に叩きつけられてもなお、藍洙の視線は俊熙にだけ向けられていた。

「お会いしとうございました! 陛下!」

 藍洙は泣きそうな顔で必死に訴えた。

 恋する乙女は盲目だ。なにをする為に訪ねて来たのかなどという常識を捨て、自分の為だけに会いに来てくれたのに違いないと自分の都合よく解釈をしてしまう。

「陛下。ご厚意に感謝いたします」

 香月は最敬礼の姿勢をとり、俊熙に声をかける。

 先ほどまで藍洙を相手にしていたとは思えないほどに優雅な姿だった。

「昭媛宮をお調べくださいませ。呪術の痕跡があるものと思われます」

「わかった。香月、お前の被害はなかったか?」

「はい、陛下。私は無事でございます」

 香月が返事をしている間、お茶会に同席をしていた藍洙の侍女たちは宦官の手により捕らえられる。事情を気が狂うほどに聞かれることになるだろう。