後宮妃は木犀の下で眠りたい

 人を呪わば穴二つと言われる通り、呪術で身を滅ぼした人の最期は人とは思えない黒焦げた姿であった。生きながら肌の色が黒く変色し、次第に呼吸さえもできなくなり、苦しみながら息絶える。

 その姿を香月は見たことがある。

 玄家の修行を怠り、呪術を習得することができなかった武人の慣れ果てだ。

 玄家だけではなく、四大世家では呪術も習得をする。それは結界の修復に必要なことであり、女の花園である後宮での身を守る手段として身に付けさせられるのだ。それができない者には居場所は与えられない。

「……偉そうに」

 藍洙には香月の真意は伝わらなかった。

 香月の言葉が足りなかったのも大きな原因だろう。

「あなたが賢妃に選ばれたのは玄家の人間だからでしょう!? 陛下の寵愛を受けてもいないのに、寵妃を名乗るのもいい加減にしてちょうだい!」

 藍洙は声を荒げた。

 藍洙は本気で俊熙を愛している。誰よりも愛しているからこそ、愛されたいと強く願ってしまった。その為ならば手段を選んではいられなかった。

 俊熙の心が藍洙に向けられていないのは、わかっていた。

 それでも、藍洙は止められなかった。

「陛下の寵妃になれるのは、陛下を心から愛している人だけよ!」

 藍洙の言葉は理想論だ。

 誰もが俊熙に恋をしているわけではない。

 後宮は女の花園、欲望が満ちた場所だ。家門を背負い、家の格を上げる為だけに陛下の子である御子を欲し、次期皇帝にする為だけに醜い女の争いを繰り広げる。後宮はそういうところであると香月も理解をしていた。

 しかし、藍洙は違った。

 藍洙だけは純粋に俊熙に恋をしていた。愛していると言っても過言ではない。

「皇帝陛下の妃は、陛下の臣下だ」

 香月は淡々と告げる。

 その言葉が藍洙に通じないとわかっていた。

「後宮は陛下の所有物だ。愛など信じれば気が狂うだけだ」

 香月の言葉を聞き、藍洙の表情が変わった。

 敵意に満ちていた表情ではなく、愛を信じられない香月に対して、心の底から同情をしているかのような顔だった。

「かわいそうに」

 藍洙は素直に感想を口にする。

 藍洙はどこまでも純粋であり、素直な女性だった。