後宮妃は木犀の下で眠りたい

 香月は藍洙の真意が読めなかった。
 翠蘭を害したことを認めるのは、藍洙にとって不利になるだけだ。それなのにもかかわらず、藍洙は当然のように認めてしまった。

 ……言葉だけでは証拠にはならない。

 この場では罪を認めても、収監された時には無罪を主張する可能性がある。
 決定的な証拠はなにもない。

「お飾りとは?」

 香月は質問を続けることにした。

「そのままの意味よ。玄武宮の賢妃にふさわしくない見た目と性格、それに大事な役目も果たせなかったって有名じゃないの」

 藍洙は言葉遣いを正すことも忘れたかのように、翠蘭の非を語る。

 ……呪術の影響が酷いな。

 藍洙は呪術の影響を受けている。

 その精神はゆっくりと蝕まれており、他人に対して攻撃的な態度ばかりをとるのは精神的に不安定になっている証拠だった。禊ぎを行えない人間が李帝国を守護している結界が視えているとは考えにくく、単純に賢妃として求められる剣舞が踊れなかったことを指摘しているのだろう。

 ……有名な話か。

 翠蘭は非難の的にされたのだろう。

 後宮にふさわしくないと石を投げつけられたかもしれない。玄武宮に努めていた侍女たちにも見放されていた可能性が高い。少なくとも、藍洙は翠蘭を害する為だけに、自身の影響を考えることもせず、呪術を使っている。

 香月はなにも知らなかった。

 だからこそ、翠蘭の死の真相を探っているのだ。

「黄昭媛の考えはわかった」

 香月は藍洙を許すことはない。

 玄武宮の賢妃として翠蘭が後宮に招かれたのは、変えようもない事実だ。その座にふさわしくないからと害を与えていいものではない。

「玄武宮の主として正しき行いをすることができるのならば、呪術から手を引いてくれるか?」

 香月は問いかける。

 それに対し、藍洙は動揺していた。

「呪術は正しき術を知らなければ、身を滅ぼす。これは私から黄昭媛に対する最後の忠告だと考えてくれてかまわない」

 香月は呪術で身を滅ぼした人たちを見たことがあった。