後宮妃は木犀の下で眠りたい

 香月は筆をとり、簡単に文を書き始める。

 ……後宮の決まりごとは理解ができない。

 文を届けたところでなにが変わるのか。香月は理解をしていなかった。

 玄家では決定権を持っていたのは当主だ。その次に当主候補であった香月である。だからこそ、重要なことでなければ許可を得る必要がなかった。

 ……茶会にて剣舞を披露するとでも書いておけばいいか。

 奉納になる保証はない。

 しかし、気功を込めて剣舞を踊れば、四夫人の賢妃は健在であることが証明されるだろう。

 それが相手に伝わる保証はどこにもなかったが、少なくとも、敵う相手ではないと悟るはずだ。


* * *


 玄武宮の茶会は豪華だった。

 こだわられた茶器と木犀の茶を用意され、菓子は数十種類にも及ぶ。

「黄昭媛、茶会のお誘いをいただき感謝をする」

 香月は優雅に席に座りながら声をかける。

 それに対し、藍洙は目を見開いていた。本来、格上の相手に対して礼儀正しく振る舞わなければならない。後宮での身分制度は与えられた地位によるものだ。

 ……礼儀を習っていないのか。

 藍洙の生い立ちは調べさせた。

 かつての名門の黄家とは思えないほどに落ちぶれた生活をしており、家族を養う為だけに後宮の下女として働いていた。そして、その性格と生い立ちから酷い嫌がらせにあっていたところ、昭媛の座を与えられた。

 しかし、昭媛としてふさわしい振る舞いは身についていない。

 だからこそ、目上の人間である香月を当日の朝に茶会に誘い、15時までに茶会の準備を玄武宮でするように命じるような文を書くように指示できたのだろう。

「どうかなされたか。黄昭媛。貴女の望んだことだろう」

 香月はわざとらしく声をかける。

 藍洙は震えていた。恐怖ではなく、怒りによるものだ。

「貴女と話がしたいと思っていたところだ。私のところにいた侍女が世話になっていたようだったからな。あぁ、これは失礼。解雇した元侍女だった」

 香月は藍洙の話を待たず、次から次へと話しかける。

 しかし、席に座るようには誘導しない。

 常識のない相手をする暇はないのだと無意識に圧をかけていた。