後宮妃は木犀の下で眠りたい

「無礼な輩には思い知らせてやらねばならない」

 香月は淡々と語る。
 無礼を黙って許すのには玄家の教えに反する。

「玄武宮の賢妃として出迎えてやろう。武功を身に付けていない連中には、理解もできないだろうが」

 香月には気がかりがあった。

 国を守る結界の亀裂は広がりつつあるのにもかかわらず、皇帝である俊熙は見て見ぬふりをしている。

 亀裂を修復するのには気功が必要となる。

 結界を維持する為の四夫人だというのにもかかわらず、俊熙は結界を修復する為の奉納を香月に命じなかった。

 ……陛下の考えはわからない。

 行いたいのならば、してもかまわないと言ってはいたが、強制をするつもりはないようだ。

 ……民の被害が出る前に塞がなければ。

 俊熙は香月の身を案じていたのだろう。

 気功は使いすぎれば命を削ることもある。国を守る結界の修復を施せば、四夫人の一角が命を落としてもおかしくはない。それほどまでに結界の亀裂は広がってしまっている。

「剣舞を披露する。梓晴、舞台を整えておけ」

 香月は気功を操る武人だ。

 玄家は代々剣舞を奉納してきた。四夫人としてふさわしい姿で剣を巧みに振るいながら舞う姿は、まさに仙人が降臨したようであった。

「かしこまりました」

 梓晴は仰々しく返事をする。

 香月は一度決めたことを覆さない。

「賢妃様。一度、陛下に文を書かれてくださいな」

「なぜ?」

「結界の修復は国の一大事。それを陛下の知らぬところで起きるのは、陛下の威厳に関わります」

 雲婷は文と筆を香月の前に机に並べる。

 いますぐ、文を書けば間に合うだろう。

「そういうものか。後宮というのはめんどうだな」

「そういうものなのです。ここは玄家ではないということを改めてご理解なさってくださいませ」

 雲婷の言葉に香月は頷くことしかできなかった。