後宮妃は木犀の下で眠りたい

 ……孫一族の末娘か。

 気を扱う才能に恵まれず、道術を身に付けることもできない。

 道術よりも簡単であるとされている呪術さえも身に付けられず、一生、雑用をして生きていくことになる者たちは珍しくはない。

 玄家の本家や分家、玄家の血を継いでいる者でなければ、才能なき者への扱いはそれぞれの一族に委ねられる。

 孫家は子殺しをしない一族だった。

 雑用係として役に立てば生きている価値がありと判断し、名も知られぬように徹底的な教育を叩き込む。主人に忠誠を誓い、主人の為ならば命を投げ出すように教育を行うはずなのだが、小鈴はそれらの教育が始まる前に侍女として任命されてしまったのだろう。

「必要ない」

 香月は同情をするわけにはいかなかった。

 事情を察したものの、裏切り者を許すわけにはいかない。

「監視する労力の無駄だ。早々に孫家に送り返せ」

 香月は振り返らない。

 同情をしてしまっていることを悟られるわけにはいかなかった。

「承知しました」

 明明は香月の意図を理解していない。

 軽々と小鈴を担ぎ上げ、外へと連れ出そうとする。痛みに唸り声のような悲鳴をあげている小鈴に対し、丁重に扱おうという気持ちは明明にはなかった。

 明明は主人を裏切った罪人を捨てに行くだけなのだ。

「明明。孫家に判断を委ねると言付けを頼む」

 香月は小鈴を庇わない。

 それでも、この場で命を奪うような命令を下さないのは香月の優しさだった。両親ならば小鈴の言い訳の一つも聞くこともせず、迷うことなく首を刎ねてしまっただろう。

 小鈴の命だけで片付くのならば、それが最善だと両親ならば判断をしていたはずだ。

 香月はそれができなかった。

 母の手で殺された妹の顔を思い出してしまう。

 それを自分の手で体験することを避けてしまった。

「承知しました。それでは」

 明明は軽い挨拶を交わし、すぐに地面を蹴り上げた。

 瞬く間に玄武宮の屋根に飛び移り、迷うことなく、屋根から屋根へと飛び移っていく。