後宮妃は木犀の下で眠りたい

「牢にいれるつもりですか!?」

 小鈴は悲鳴をあげた。

 小鈴は主を裏切った。しかし、それが死罪に繋がるような罰であると考えてはいなかったのだろう。

 罪人として牢に繋がれる姿を想像し、反射的に声をあげたものの、杖打ちをされた体は痛みを発しており、動くだけで杖打ちされた箇所が悲鳴をあげている。

 ……玄家の牢を知っているのか。

 香月は小鈴の反応に見覚えがあった。

 ……玄家の使用人の家系から選出されたのには、間違いないようだ。

 香月は孫家の一族と面識がない。

 次期当主と名高かった香月の世話をすることができるのは、文武両道の女性だけと定められており、男性の従者は香月が指揮を執る精鋭部隊の者たちだけだ。従者というよりも部下という立場であり、香月が武功の指導をしている弟子たちでもある。

 その中にも孫家を名乗る者はいなかった。

「お許しください、賢妃様。牢に入れられては、私は生きてはいけません」

 小鈴は涙を流して許しを乞う。

 北部の山奥を領地とする玄家の牢は、罪人を閉じ込めておく為の場所である。しかし、極寒の地に作られている牢から出される時には罪人は命を落としている。たとえ、免罪だと判明した後でも牢に入れられた者は生きて出ることはできない。

 そのような場所こそが牢であると認識をしているようだった。

 ……思い出した。

 情けなく許しを乞う姿を見たことがあった。

 ……春鈴の乳母によく似ている。

 春鈴の乳母は孫家の女性だった。

 幼い子どもでありながらも、武功の才がないと判決が下ろされて死を与えられた春鈴の命を救おうと必死になって声を上げていた。しかし、その声は不快なものとして処理され、玄家の直系の娘の乳母という立場にあったのにもかかわらず、玄家の牢に連れて行かれてしまった。

 乳母の女性の安否は不明だ。

 誰も知ろうとはしない。

 しかし、玄家の牢に入れられた者は玄家の裏切り者だ。

 裏切り者を生かしておくような優しい一族ではない。