後宮妃は木犀の下で眠りたい

 親の為に子は尽くす。
 それはこの国では普通のことだ。香月も両親の為に尽くしてきた。
 後宮に入り、尽くすべき相手が変わっただけである。

「孫小鈴。歳はいくつになる?」

 香月は足を止めた。
 しかし、振り向くことはしない。

「十三になります」

 小鈴は質問の意図を理解せず、ただ、事実を答えた。

 少しでも気を引かなければいけないと察しているのだろう。

 ……十三か。

 紅花と同じ年だった。

 ……やはり、母上の策略だな。

 小鈴が欲に目が眩み、香月を裏切ることを想定して侍女に選出したのだろう。

 同情し、小鈴のしたことはすべて香月の指示によるものだったとすれば、玄家にいる紅花を使って香月の心を揺さぶり、小鈴を処罰すれば、同じ年頃の子どもを侍女にすればいいと紅花を後宮に送るつもりだったのだろう。

 それは、玥瑶のよく使う策の一つだった。

「母上にも文を出さなければならないな」

 香月は子どもは送らないでほしいと願う文を書かなければいけない。

 そうしなければ、次に送られてくるのは紅花だ。

「孫家に送り返せ」

 香月は小鈴の願いを聞き届けるわけにはいかない。

 孫家がどのような判断をするのか、香月が関わることはない。しかし、主人を裏切るような侍女を必要とする者は現れないだろう。

「かしこまりました。すぐに手配しましょう」

 梓晴は槍を片手に返事をした。

 槍を片付けないのは威嚇のつもりだろう。

「香月様」

「明明。名ではなく、賢妃様とお呼びなさい。ここは玄家ではなく、後宮です」

「はい。侍女頭。賢妃様。指示をください」

 明明は香月に指示を仰ぐ。

 武芸に長けた明明の本業は暗殺者だ。言葉は最低限しか口にせず、常に指示を仰ぎ、命令に忠実だ。

「玄武宮に牢がありません」

 明明は困ったように事実だけを口にした。

 言葉が足りないのはいつものことである。