後宮妃は木犀の下で眠りたい

 妃賓の機嫌を損ねただけで私刑にあったとしても、問題にはならない。それで命を落としたところで、非は私刑を命じた妃賓ではなく、私刑を命じられることをした侍女にある。

 そのような立場に妹をさせるわけにはいかなかった。

 ……結局、言い訳の一つもしなかったな。

 期待をしていたわけではない。

 後宮入りをしてから日数が経っていないのにもかかわらず、簡単に買収されるような相手に対して期待をすることもできない。

 しかし、それでも子どもらしい言い訳の一つでも聞かされるものだと思っていた。なにも知らなかったのだと無実を訴えるものだと思っていた。

 それに応えるわけにはいかない。

 しかし、翠蘭を追い詰めた元凶の一人が誰であるのか、探り出した褒美を与えることはできただろう。

 ……口を縫われたわけではないのに。

 それほどに金子を与えた相手に恩を感じているのだろうか。

 考えれば考えるほどに不快な気分になる。

 香月は立ち上がり、背を向けた。

 背を向けられても攻撃の一つもしようとしないのは、小鈴が気弱だからなのか。それとも、なにもする術を持っていないのか。香月にはそれすらも知る資格がないように思えてしかたがなかった。

「お、お待ちください!」

 小鈴が声をあげた。

 縄抜けをすることもせず、姿勢を正そうとすることもなく、地面に体をつけたままの姿勢で声をあげる。

「これは私がいけないのです! どうか、どうか、お父様とお母様への叱責だけはお許しください!」

 小鈴は必死に訴える。

 ようやく、自分のしてしまった罪の大きさを理解したのだろう。

 ……自分の命を乞うわけではなく、親の為か。

 それはこの国ではおかしいことではない。

 後宮にいる者はすべて皇帝の所有物である。

 しかし、皇帝の管轄外に追い出された者の行く末は誰も知らない。

 ……悲しいものだな。

 皇帝の寵愛を受ける香月を害したと知られてしまえば、小鈴の両親は自らの命を差し出してでも、一族を守ろうとするかもしれない。そのことに幼いながらも気づいてしまったのだ。