後宮妃は木犀の下で眠りたい

「賢妃様。裏切り者に声をかけてはなりません。貴女様が同席をしたいと強くおっしゃられるからこそ、席を用意したのだということをお忘れになられてはなりません」

 雲婷は香月の後ろに立っていた。

 玄武宮の掃除をしながらも小鈴の様子を伺う侍女たちもいる。万が一、小鈴が拘束を抜け出し、香月の命を狙ったとしても問題なく返り討ちができるように万全の準備が整えられていた。

 本来ならば、小鈴の尋問は香月の役目ではない。

 香月は侍女からの報告を聞くだけでいい。

「わかっている」

 香月は雲婷の言い分を理解していた。

 ……まだ幼い子どもではないか。

 心が痛む。
 まともに訓練も教育も施されていない子どもだ。遠目で見たよりも幼く見えるのは栄養が行き届いていないからだろうか。

 ……手配をしたのは母上だろうか。

 玥瑶は香月こそが玄家の当主に相応しいと信じて疑わない。

 だからこそ、香月を試したのだ。五年前、玥瑶の手で殺された妹の死を悔やんでいないか、確かめる為だけに用意された駒だった。

「孫家には教育不足の娘はいらんと突き返してやれ。代わりの侍女を手配するように、父上に文を出さなければいけなくなってしまったからな」

 香月はなにも答えない小鈴に興味を示すわけにはいかなかった。

「これだから幼子は苦手なのだ。目先のものばかりに気を取られて、大事なことをなにも考えようとはしない」

 香月は呆れたような物言いをする。

 それが小鈴の為なのだと、雲婷たちはわかっていた。

「手当は必要ない。そのまま、孫家に送り届けよ」

 小鈴に同情をすれば、玥瑶の耳に入るだろう。

 そうなれば、玥瑶は香月の心を揺さぶる為だけに玄家に残る妹の紅花を利用する。

 身内が傍にいる方が動きやすいだろうとわざとらしい言葉を口にしながら、侍女として紅花を送り込もうとしてくることだろう。

 ……紅花だけは利用させはしない。

 後宮は危険な場所だ。

 侍女の命は妃賓とは比べ物にならないくらいに軽い。