後宮妃は木犀の下で眠りたい

 だからこそ、藍洙は指示を出すだけだった。
 陽紗がなにを書いているのか、藍洙は見ても理解することができない。それは藍洙にとって不利なことであるとわかっていなかった。


* * *


 玄武宮の門の前、荷物のように小鈴は縄で縛られて置かれていた。

 小鈴の背中には文が置かれており、文を落とさないように厳重に縄で縛られているようにも見えた。それでは飽き足らず、小鈴の顔を覆い隠すように紙が貼られていた。

 その恰好のまま、小鈴は明明によって玄武宮の中に運ばれていった。裏切り者を丁重に扱うはずもなく、玄武宮の中庭に投げ捨てられた。

「ずいぶんと汚くされたものだな」

 香月は小鈴に近づかない。

 小鈴を警戒している明明と梓晴は威嚇するように槍を手にしており、小鈴がなにかをしようとものならば、正当防衛を言い訳にして攻撃をするつもりだろう。両脇に二人を控え、雲婷が用意した外で使ってもいい椅子に座ったままの香月は小鈴に同情をするような視線を向けていた。

「文を回収いたしました。お読みになりますか?」

「いや。どうせ、私を呪う言葉だろう。燃やしてしまえばいい」

「かしこまりました。昭媛宮に返礼として灰でも投げ捨てておきましょう」

 梓晴は香月の性格をよく理解している。

 嫌がらせを黙って受け入れるような性格ではなく、報復は必ず行う。報復もできないような大人しい女性だと思われるのは、玄家では最悪の振る舞いだ。

 ……呪術の気配もない。

 香月の読みが外れたようだ。

 ……昭媛宮の侍女が道士だと思ったのだが、外れのようだな。

 呪術の知識を持つ者はいたようだが、道士として経験を積んだわけではないようだ。小鈴に張られていた紙は恨み言を綴った文ではあったのだが、それでは人を呪うことはできない。

 ……道士の駒が昭媛宮に入り込んでいると考えた方が良さそうだ。

 藍洙だけが敵ではない。

 藍洙は使い勝手のいい駒として利用されたのだろう。

「孫小鈴。主人を裏切るのは刑罰の対象だと知らなかったのか?」

 香月は小鈴に問いかける。

 ……見覚えがないな。

 玄家で香月を世話していた従者ではない。急に決まったことだった為、臨時で補充をしたと聞いていたが、ここまで幼い子どもだとは思ってもいなかった。