後宮妃は木犀の下で眠りたい

「……明明に動向を探らせている」

 香月は椅子に腰をかける。

 立ったまま話をするのは玄家ではよく見られた光景ではあるものの、後宮ではそういうわけにはいかない。

 香月は、玄武宮の主人である。

 四夫人の一角として相応しい仕草を身に付けなければならない。他の妃に買収にされた侍女は一人とは限らないのだ。どこで見られているのか、わからない限り、警戒をし続けなければならない。

 ……証拠と共に戻るように伝えたが。

 明明は優秀な武人である。

 香月の護衛として真っ先に名が挙がった実力者であり、梓晴同様に香月に忠誠を誓っている。

 だからこそ、明明は香月が後宮妃になることを反対していた。

 玄家を率いるのは香月でなければならない。

 明明は何度も当主に懇願をしていたことを香月は知っている。

 ……勝手な真似をしていなければいいが。

 明明は裏切り者を許さない。

 敬愛する主人に対し、悪意を向ける者を生かさなければならないという考えは明明にはない。


* * *


「この役立たず!!」

 昭媛宮では甲高い声が響き渡る。

 憤慨した様子を隠すこともせず、黄藍洙は地面に這いつくばるようにして丸くなりながら震えている玄武宮の侍女を叱責していた。

「陛下が玄武宮でお過ごしになられたというだけでも許しがたいのに。壺を人目のつくところに置いてきたですって!? 信じられない! これだから、侍女なんて信用ができないのよ!」

 藍洙は穏やかでおとしやかな後宮妃であるという印象を大事にしていたのだが、その化けの皮は簡単にはがれてしまった。

(リーウ) 陽紗(ヨウシャー)!」

 藍洙は控えているだけの侍女、柳陽紗を呼ぶ。

 藍洙には忠誠を誓ってくれるような侍女はいない。

 黄家は元々は名家ではあったものの、今では貧乏な家系だ。その日暮らしの生活を強いられそうになり、藍洙を後宮送りにすることでなんとか生活を続けようとしていたような家族だった。