……愚かな人もいたものだ。

 後宮は女性たちだけで構成されている。

 李帝国では女性に武功や呪術の知識は不要であると考える者も少なくはない。

 その為、政治の道具として使いやすいように、妃の資質に関わるような知識や芸術などの教育には力は入れるものの、武功や道術、呪術には興味を抱かないように言い聞かせて育てる家もある。

 その結果、呪術の心得がある者に利用される女性が現れるのだ。

 ……蟲毒でも作ろうとしたのか。

 道術の嗜みもなく、呪術の知識が少ない者による犯行だろう。

 危険な行為をしているのではないかと疑いを抱かないように、最低限のやり方だけを教えて実行させたのに違いない。

 それで呪術は成立しないとわかっていながらも、命を狙われていると思い知らせるのにも、恐怖心を抱かせるのにもちょうどいい。

 これは忠告だ。

 寵愛を受けるのならば手段を選ばないという警告だ。

 しかし、相手が悪かった。

 香月は道術の使い手でもある。最北端の山々の中、修練を続けていれば、死後は仙女になることができるだろうと言われるほどの使い手である。

 その為、香月には意味のない行為だった。

 ……失敗どころか呪術として成立もしていない。

 本来、人目のあるところに置いておくようなものではないが、壺の中でうごめているムカデやクモ、トカゲの数は五十にも満たない。それも今朝捕まえられたばかりなのか、共食いをした形跡もなかった。

 そのような呪術があると耳にした者が行った可能性が高い。

 ……形跡を探るか。

 中身は必要はない。
 香月は蟲毒を使うのには問題点が多すぎることを知っていた。

「賢妃様。それはなにを企んでおりましたの?」

 雲婷は恐る恐る問いかける。

 壺の中身を見て、嫌な予感しかなかった。

「蟲毒を作ろうとしたのだろう」

「蟲毒!? あれは危険な呪術ではないのですか!?」

「成功をしていれば危険だ。だが、残念なほどに失敗しているよ」

 香月は呆れていた。

 呪術は見様見真似で、できるものではない。なにより、術者にかかる負担と危険性を理解せずに行うのは信じられないものだった。