「襲撃者が誰であれ、加減は無用だ。その者の素性さえわかれば、生死は問わない。ただし、可能な限り、けがはしてくれるなよ」

 俊熙は妥協した。

 夜が明けた以降、襲撃があれば、犯人は後宮妃や下女の単独による可能性が高まる。そうなれば、翠嵐の一件と俊熙の暗殺未遂事件の犯人は一緒ではないと考えるべきだろう。

 皇帝暗殺を企んだ者が簡単に姿を見せるとは思えない。

 しかし、警戒しておくべきだろう。

「はい。陛下。香月にお任せください」

 香月は命令に忠実である。

 死と隣り合わせの修練も数えきれないほどに積んできた。常に冷静に状況を判断し、必要となれば相手の命を奪える。冷酷に振る舞う為の訓練も玄家では日常の生活の一部に組み込まれてきた。

 明日以降に備え、香月は目を閉じる。

 気配には敏感である。たとえ、熟睡中に刺客に襲われたとしても反射的に反撃ができるように鍛えられている。