それは玄家だけではない。四大世家の共通認識だった。
 そのことを俊熙は知らないのだろう。

「いいえ。翠蘭姉上とは一言も言葉を交えたことがありません」

「なぜだ?」

「翠蘭姉上は玄玥瑶の娘ではありません。それゆえ、言葉を交わすことは禁じられておりました」

 香月は淡々と事実を述べた。

 異母兄弟は珍しくはない。名門の一族ならば妾を持つのは普通のことだ。

「そういうものか」

 俊熙は理解を示した。

 母親が違うというのは香月が堂々と口にしていたものの、言葉も交わしたことがないほどに疎遠だったとは知らなかったのだろう。

「香月の代わりとして翠蘭が選ばれたと聞いていたが、それは事実か?」

「申し訳ございません。父上がどのような意図で翠蘭姉上を後宮入りさせたのか、私は聞いたことがありません」

「そうか。では、玄浩然の独断によるものとしておこう」

 俊熙は、数年の間、胸に秘めていた疑問の答えを得たようだ。

 三年前、皇帝を継いだ時、俊熙は賢妃として香月の後宮入りを打診していた。しかし、賢妃として後宮入りしたのは香月ではなく、翠蘭だった。

「翠蘭が黙っていたのも理由があったのだろう」

 俊熙は頑なに口を閉ざした翠蘭の姿を覚えている。

 翠蘭は打ち明けられなかったのだ。下手なことを口にしてしまえば、人質のような扱いを受けている母に被害がいくと知っていたからこそ、頑なに事情を話そうとはしなかった。

「俺はそなたに嫌われているものだと悩んでいたんだがな」

 俊熙の悩みは意味のないものだった。

 そもそも、香月は三年前に後宮入りの話が出ていたことを知らなかったのだから、拒絶されたのではないかと考えるだけ時間の無駄だったのである。

「一年後、そなたを抱く。それまでの間もこうして夜通し話には来てやろう」

 俊熙は香月が寵愛を受けられないと落ち込んでいると思ったのだろう。心配をする必要はないとでも言うかのように、宣言をした。

「陛下。私の疑問はそれではありません」

 香月は誤解を受けていることに気づいた。

 夜伽が行われないことに疑問を抱いたわけではない。

 雲婷は夜伽が行われてもいいようにと丁寧に準備をしていたものの、香月は俊熙の訪問は別の目的があると知っていた。