永斗の葬儀が行われて、私と宮下さんも参列した。
 あの日から、まだ泣かない日は一日もないけれど、祭壇に飾られた永斗の写真を見ていると、
 『早く元気だせよ』と言われている気がした。

 永斗パパは葬儀中もずっと泣いていたが、泣きながら『前を向いて生きます』と宣言していた。

 葬儀の帰り、宮下さんが「七奈ちゃん、少し話せる?」と言ってきた。
 私と宮下さんは、二人でカフェに入ってコーヒーを注文した。運ばれてきたコーヒーを見ただけで、永斗を思い出して泣きそうになるんだから、もうどうしようもなかった。

 「七奈ちゃんこれ、、、」

宮下さんが、私に見覚えのある緑色の封筒を私に渡した。

 「これ、、、」

「永斗君から、七奈ちゃんへの手紙、預かってたの。もし、七奈ちゃんが全て思い出したら渡して欲しいって、、、」

やっぱり、あの差出人不明の手紙は永斗からだったんだ、、、。

 「永斗君ね、七奈ちゃんが退院してからも、七奈ちゃんの事をずっと気にしてた。診察に来る度に、七奈ちゃんの様子を私に聞いてきてた」

「それで、手紙を?」

「そう。七奈ちゃんが落ち込んでいる話しを私から聞くと、永斗君は名乗らずに手紙を書いたの。それを私が発送してた」

(それで、タイミングよく手紙が届いていたのか、、、)

私は何となく腑に落ちた。
確かに、このレターセットを買った時に、お互いに辛い時に手紙を書き合おうと話していた。
永斗はちゃんと約束を守っていた。手紙を書くのが苦手なのに、、、。

 「七奈ちゃんが、自殺未遂をして病院に運ばれて入院した時、ちょうど永斗君も病気の進行が早くて、、、余命がそんなに長くないって言われた時期でね。七奈ちゃんが病院に運ばれた話しをしたら、永斗君、自分の身体よりも、七奈ちゃんの事を酷く心配してね、、、」

宮下さんが、鼻を赤くしてハンカチを取り出して、涙を拭いた。

 「すぐに手紙を書いて、何とか出来ないか考えてた、、、。だから、私は思いきって七奈ちゃんを永斗君の働くキャンプ場へ誘ったの。
 本当にただの賭けだったんだけど、永斗君なら七奈ちゃんをまた元気にしてくれるって、私も思ったの、、、」

「それで、ソロキャンプに行けなんて言ったんですね、、、」

でも、私はその通りにあのキャンプ場へ行った、、、。だからお母さんも私がキャンプへ行く事に反対しなかったのだ。
 永斗がいる事を知っていたから、、、。

 「そう、、、でも、まさか七奈ちゃんがあのキャンプ場で働きたいなんて言うとは思わなかったけどね、、、。本当に流石だと思った。
 永斗君は、七奈ちゃんを前向きにさせる天才だよね」

「永斗も、私が働きたいって言った時は流石にちょっと困ってましたけどね、、、」

 「永斗君もびっくりしてたよ。
でも、七奈ちゃんが夏休みの間、キャンプ場で働く事になって、永斗君は計画をたてたの、、、」

「計画ですか、、、?」

宮下さんが少し泣きながら微笑んだ。

 「そう、、、七奈ちゃんを立ち直らせる計画、、、」

私は何となくわかってしまった。
永斗が影で私の為にしてくれた事を、、、。

 「辛い時に相談できる人間が、周りに沢山いた方がいいからって、まず、疎遠になってしまった友人に声をかけた」

「、、、美優ですね?」

「そう、、、美優ちゃんはあっさりつかまえる事が出来た。七奈ちゃんのお母さんが、連絡先を知ってたからね、、、事情を話して永斗君が美優ちゃんに協力して欲しいって頼みこんだ。
 美優ちゃんは元から、七奈ちゃんと仲直りしたかったみたいだから、直ぐにキャンプ場へ来てくれた。、、、でもまさか、永斗君が
美優ちゃんへのプロポーズの計画まで参加してるなんて知らなかったけど」

「確かに、、、美優もそっちは、知らなかったから、、、」

「本当に凄いよね、永斗君。元気っていうか、元気じゃないんだけどさ。身体だって絶対辛いはずなのに、仕事の休みの日は、診察に来て色々連絡とったりしてね」

永斗は多分、皆んなを喜ばせたかったんだろう。皆んなを笑顔にして生きていたいと言っていたから、、、。

 「大変だったのは、七奈ちゃんのお父さん。
何処にいるかもわからないし、全然連絡つかないの。流石に七奈ちゃんのお母さんも渋い顔をしていたし。
 でも永斗君が説得してね『七奈が会いたがってるのでお願いします』って、まあ、お母さんも折れて、昔の編集者のつてを使って、連絡してくれた」

「それでわざわざ、海外から来てくれたんですか?」

「そう。『愛情があるなら、七奈が苦しんでる時に側にきてあげてください』って。
 初めは、父親って名乗るか悩んでたみたいだけど『七奈は喜ぶから』ってお父さんを説得したみたいね」

、、、もう訳がわからない。
なんで、私の為にそこまでするんだろうか。

 「最後に翔也君ね。永斗君、浮気した事、かなり怒ってたけど、翔也君も辛かったみたいね。
本当は、七奈は俺の事が好きじゃないんじゃないかってずっと思ってたみたい。
 闘病中の、永斗君の思い出の影を愛してるだけなんじゃないかって」

「翔也、、、そんな事思ってたんだ」

「付き合っててもずっと不安だったみたい。
けど、やっぱり七奈ちゃんとやり直したいって言って、永斗君が『それならキャンプ場から連れて帰れ』って『でも、次浮気したら呪縛霊になって一生呪う』って言ってた」

私と宮下さんは思わず笑った。

 「でも、七奈ちゃんは翔也君を振って、永斗君を選んで、永斗君どうしたらいいかわからなくなってた。もう、馬鹿だなぁって思ったよ。
 私は最初からわかってたよ。
七奈ちゃんは、また永斗君に恋をするって」

確かに、私は二度永斗に恋をした。
止められていたのに、気持ちを止める事が出来なかった。

 「でもさ、私は良いんじゃないかと思った。今まで散々、我慢してきたんだから最後くらい幸せな思いをしてもいいじゃない?好きな人を愛して、愛されて、ご褒美のような時間を味わってもいいじゃんって。永斗君は『七奈への気持ちを押さえるのが、きつい。つい手を出しそうになる』って言ってたけどね」

胸がいっぱいで苦しかった。
永斗の笑顔が頭に浮かんで離れなかった。永斗は最後に私と過ごせて幸せだったのだろうか。

 「これで、七奈ちゃんを立ち直らせる計画は終了!!七奈ちゃん、わかるよね?永斗君が死ぬ気で救った七奈ちゃんの命、、、もう粗末にしないでよ!」

 声が出なくて頷くしか出来なかった。人生でこんなに他人に愛される事なんてあるのだろうか。
 永斗の人生において私は、何か役にたつ事ができたのだろうか。