病室に、弱々しいモニターの音が鳴り響く。
私は永斗の大きな手を握りしめた。
その手も、今では痩せ細って力はなかった。

 「永斗、、、永斗、、、」

私が何度も呼びかけても、永斗は目を開ける事はなかった。

 「永斗なぁ、この夏、七奈ちゃんと過ごせて本当に幸せそうだったんだよ。久しぶりにあんなに楽しそうな永斗を見たよ」

「そうですね。診察にきても、七奈ちゃんとキャンプ場で働いてると、どんどん元気になる気がするって言ってましたね。確かに本当にどんどん元気になって、このまま病気治っちゃうんじゃないかと思いましたよ」

宮下さんも目に涙を溜めて言った。

 「永斗はあれから、ずっと治療を続けてたの?」

「そう、、、良くなったり、悪くなったりしてね。一時期凄くよくなって、仕事をしたり普通の生活をしてたんだけど、また再発してね。
それからは急激に悪くなってね。でも、七奈ちゃん。永斗は頑張って病気と闘っていたよ。俺の自慢の息子だよ」

永斗はずっと一人で闘っていたんだ、、、
私が永斗を忘れている間も、必死に生きていたんだ、、、。
あんなに、私は永斗に救われたのに、私は永斗に何も返せなかった、、、。
 胸が苦しくて息が出来なかった。永斗がこんなになるまで気づけなかった自分が酷く薄情で、情けなかった。

 モニターの音がせわしなく鳴り響き始めた。
永斗の時間が消えていく、、、。まわりが慌ただしく動きだした所で、私は周りの音がいっさい聞こえなくなった。

  『死は辛いけど、悲しいばかりではないよ。健康で生きていると、死の存在を忘れているけど、いつも死は俺達のすぐ側で寄り添っているものだと思う』

永斗の声が聞こえた。そう言えば、永斗が私にそんな事を言っていた。

 『一人一人の寿命があって、それが終わったら優しく迎えいれてくれるような、そんな穏やかなものだと思ってる』


「頑張った自分のご褒美のような物だと思っている」


私はつい、口にだした。

 永斗の顔を見ると、気持ちが良さそうに幸せそうな顔をしていた。
 永斗は死に優しく抱かれているのかもしれないと思った、、、。
きっと、今まで辛くても頑張って頑張って
一生懸命に生きてきた。だからこそ、永斗はこんなにも安らかな顔で旅立てるのだと感じた。

 "永斗ごめんね、、、うんん、ごめんねじゃない。ありがとう、、、。やっぱり辛くて笑えそうにないけど、、、本当に、本当に、、、ありがとう"




 "ありがとう、、、"