俺の病室の部屋がノックされて翔也が入ってきた。翔也は酷く気まずそうな顔で、俺のベッドの横にきた。

 「あの、、、俺、無理です。あなたの代わりに七奈と付き合うなんて」

翔也はそう言って俯いた。俺は正直に言えば、翔也の顔すら見たくなかったが、翔也を睨みつけた。

 「何、怖気付いてんだよ。お前、ずっと七奈の事好きだったとか言ってたよな?
なんでこんな最大のチャンス逃すんだよ」

翔也が少し、怒りに満ちた顔で俺を見た。

 「だって、七奈は今勘違いしてるだけだろ?別に俺の事を好きなわけじゃない。そんなんで付き合っても意味ないだろ?」

「自信ないんだ、、、?」

俺の言葉で翔也がどんどん逆上していくのが手に取るようにわかった。

 「七奈を好きにさせる自信がないんだ。そんなんで、何がずっと好きだっただよ!好きならあいつを本当に好きにさせてみろよ」

俺は思わず叫んでいた。シーツの下で握っていた手が痛かった。俺は嫉妬の塊だった。目の前の翔也が、羨ましくて仕方がなかった。その健康な身体も、今七奈に愛されている事実も全てが羨ましかった。

 「あんた、本当にそれでいいのかよ、、、」

翔也が泣き出しそうな顔で俺を見た。

 「見てみろ、こんな状態で俺は責任とれない。
お前は、取れるだろ?、、、七奈を支えられるだろ?」

 最後はもはや、頼み込んでいた。一発殴りたい気分だったのに。俺は結局翔也の気持ちをずっと感じていた。
 翔也が本当に、七奈の事を思っている事を知っていた。その裏にどんな歯痒い思いがあったか手に取るようにわかっていた。

 それでも人間なんて、気分によって気持ちがコロコロ変わる。俺は七奈から手を引こうと決意したのに、いつも思うのは七奈の事ばかりで、いつか七奈が俺の事を思い出してくれないかと願っていた。

 屋上で、七奈と翔也が楽しそうに笑っている姿を見つけると、俺はいつも七奈に心の中で呼びかけていた。

 『七奈、、、俺の事、忘れるなよ。他の男なんかに行くなよ、、、』

『思い出せよ、、、ずっと側にいてくれよ』

 俺は胸が切り裂かれるような思いで、ただ七奈に焦がれていた。
 けれど、翔也といる、七奈の笑顔を見ると安心もした。
これで良かったと自分に言い聞かせた。

 だから、俺は今日も静かに待っていた。
七奈がいつか俺の事を思い出してくれるその日まで。
 七奈の頭の片隅の記憶として、いつまでも待つ事にした────、、、。