七奈の手術日が決まって、治療がひと段落した頃、七奈は一度退院する事に決まった。
俺達が付き合っている事は、主治医も看護師も知っていたので、七奈が退院している間に、俺も外泊させてもらう許可がもらえた。
主治医が俺と七奈に気を遣って、治療の合間や、体調がいい時を見計らって外出許可や、外泊許可を出してくれて、それを利用して俺達はたまにデートに出かけていた。というか、それを目標に俺達は頑張っていた。
「七奈は何処行きたい?」
俺は先に退院して、病室にお見舞いに来てくれた七奈に聞いた。
「パンケーキ食べたい!」七奈が俺に携帯を見せてきた。いかにも女の子が好きそうな、可愛らしいカフェの写真だった。
「ここのティラミスのパンケーキがずっと食べたかったの!」
七奈が目をキラキラ輝かせて俺に言ってきた。
「いいよ、行こうか。なんか凄く甘そうだけど!」
「いいでしょ?私、パンケーキもティラミスも大好きなの。最高の組み合わせだよ」
「そうなの?じゃあ食べに行こう。他には行きたい所ある?」
七奈は少し考えていたが、思いついたように俺に言った。
「私、永斗と制服デートがしたい!」
「制服?高校の?」
「そう!私、制服殆ど着ないで学校辞めちゃったし、制服デートするの夢だったんだ。永斗も高校の制服着て一緒にデートしたい!」
七奈はこの時点で、殆ど高校へ行かないまま退学していた。七奈にとったら、それはとても辛い選択だった。一生懸命に勉強して受験をした高校を辞めなければいけないやるせなさは、七奈にとっては、とても無念な出来事だった。
「いいよ。親父に制服持ってきてもらうよ」
七奈が嬉しそうに笑って「やったね!」と言った。七奈が笑っていると、こっちまで嬉しくなって彼女を甘やかしてばかりの、彼氏になった気分だった。
俺の外泊の日がきて、俺達は制服を着てデートに出かけた。今日は七奈の家に泊まらせてもらう事になっていて、七奈が病院まで来て一緒に出かける事になっていた。
制服姿の俺達を見て、宮下さんが「可愛い〜!!」と言って何故か感動して目を潤ませていた。
俺達は制服を着て、電車に乗って渋谷まで行った。
「なんか永斗が制服着てるの、凄い違和感!」
「いや、俺もだって。七奈が制服なんて着てるの違和感しかないから」
「でも、可愛いでしょ?似合ってる?」
「可愛い、可愛い、似合ってる」
紺のブレザーに、グレーのプリーツスカートを着た七奈は本当に可愛かった。こんな姿をして、電車に乗っていると、俺達は本当に普通の高校生のカップルになれた気がした。
今日だけは、病気の事を忘れて、ただ七奈と高校生らしいデートがしたいと心から思っていた。
俺達は何とか七奈が行きたがっていた、パンケーキ屋を見つけて、パンケーキを食べた。
七奈は念願のパンケーキが食べられて幸せそうだった。
「永斗はさ、地元にいる時に制服デートとかしたの?」
「あー、、、まぁしたかも」
俺が曖昧に答えると、七奈は少し拗ねた顔をしていた。
「そうなんだぁ〜へぇ〜いいね」
「何、やいてんの?七奈だってした事あんだろ?」
「ないって。永斗以外に付き合った人いないもん」
俺は、少し驚いた。七奈は俺の前に彼氏の一人、二人いたんじゃないかと思っていた。
「そうかぁ、、、永斗の初めては私じゃないのかぁ。それは寂しいなぁっ。てか悔しいなぁ」
七奈が少し寂しそうに氷を鳴らしてジュースを飲んだ。確かに付き合った子は何人かいたが、七奈は俺にとってその子達とは別次元だった。
"恋"と簡単に語れない程、この感情は深く暗く切なかった、、、。
俺達はその後渋谷の街をブラブラ歩いて雑貨屋に入った。
最初は好きなキャラクターを見ていた七奈が、レターセットの売り場で足を止めた。
「永斗、一緒にレターセット買おうよ」
「レターセット?」
「手紙を送るの。相手が落ち込んでる時に元気が出るような文を書いてプレゼントするの」
文をプレゼントすると言う表現が変わっていて、七奈らしいと思った。
「いいけど、俺手紙書くの苦手なんだよな、、、」
「なんで?言いたい言葉をそのまま文字にすればいいだけだよ?永斗好きな色何?」
「、、、緑?」
「はい!じゃあこれ緑のレターセットね。私は水色が好きだから水色にするね」
そう言って七奈はレターセットを買ってしまった。俺達はその後、七奈の家に行った。
何回か七奈の家に遊びに行った事はあったが、七奈の母親はまだ帰っていなかった。今日は俺がくるから、ご馳走様を買って帰ると張り切っていたのを思い出した。
二階の七奈の部屋へ行くと、夕陽が部屋にさしこんでいて、真っ赤に染めていた。
七奈の部屋のベランダから外を見ると、富士山が小さく見えていた。あの麓に俺の家があると思うと、果てしなく遠い気がした。
俺は静かに暮れ行く夕陽をただ眺めていた。
「永斗、お茶持ってきたよ」
七奈がそう言って部屋に入ってきた。七奈の顔をみた瞬間、俺は涙が溢れてきた。七奈が俺を見て、一瞬で顔を歪ませて言った。
「永斗、どうしたの?」
七奈は俺を抱きしめて、七奈も泣き出した。
多分、何も言わなくても俺の気持ちが七奈にはわかったんだろう。
今日という幸せな日が終わってしまう事が、どうしても耐えられない程に辛かった。
俺と七奈の時間がどれだけあるかわからなかったが、この時間をもう少しだけ伸ばして欲しかった。
俺と七奈は、泣きながらキスをしてベッドで抱き合った。
もう、未来とか将来とかそんな物にいっさい期待はしないから、俺はただ七奈の一部になりたかった。
この身体がいずれ朽ちてなくなるのならば、心だけはずっと離さないで、繋いだままでいたかった。
満たされた幸せには、必ず悲しみが付き纏い、それは絶対に切ってもきれない、矛盾だらけの俺達の愛だった。
俺達が付き合っている事は、主治医も看護師も知っていたので、七奈が退院している間に、俺も外泊させてもらう許可がもらえた。
主治医が俺と七奈に気を遣って、治療の合間や、体調がいい時を見計らって外出許可や、外泊許可を出してくれて、それを利用して俺達はたまにデートに出かけていた。というか、それを目標に俺達は頑張っていた。
「七奈は何処行きたい?」
俺は先に退院して、病室にお見舞いに来てくれた七奈に聞いた。
「パンケーキ食べたい!」七奈が俺に携帯を見せてきた。いかにも女の子が好きそうな、可愛らしいカフェの写真だった。
「ここのティラミスのパンケーキがずっと食べたかったの!」
七奈が目をキラキラ輝かせて俺に言ってきた。
「いいよ、行こうか。なんか凄く甘そうだけど!」
「いいでしょ?私、パンケーキもティラミスも大好きなの。最高の組み合わせだよ」
「そうなの?じゃあ食べに行こう。他には行きたい所ある?」
七奈は少し考えていたが、思いついたように俺に言った。
「私、永斗と制服デートがしたい!」
「制服?高校の?」
「そう!私、制服殆ど着ないで学校辞めちゃったし、制服デートするの夢だったんだ。永斗も高校の制服着て一緒にデートしたい!」
七奈はこの時点で、殆ど高校へ行かないまま退学していた。七奈にとったら、それはとても辛い選択だった。一生懸命に勉強して受験をした高校を辞めなければいけないやるせなさは、七奈にとっては、とても無念な出来事だった。
「いいよ。親父に制服持ってきてもらうよ」
七奈が嬉しそうに笑って「やったね!」と言った。七奈が笑っていると、こっちまで嬉しくなって彼女を甘やかしてばかりの、彼氏になった気分だった。
俺の外泊の日がきて、俺達は制服を着てデートに出かけた。今日は七奈の家に泊まらせてもらう事になっていて、七奈が病院まで来て一緒に出かける事になっていた。
制服姿の俺達を見て、宮下さんが「可愛い〜!!」と言って何故か感動して目を潤ませていた。
俺達は制服を着て、電車に乗って渋谷まで行った。
「なんか永斗が制服着てるの、凄い違和感!」
「いや、俺もだって。七奈が制服なんて着てるの違和感しかないから」
「でも、可愛いでしょ?似合ってる?」
「可愛い、可愛い、似合ってる」
紺のブレザーに、グレーのプリーツスカートを着た七奈は本当に可愛かった。こんな姿をして、電車に乗っていると、俺達は本当に普通の高校生のカップルになれた気がした。
今日だけは、病気の事を忘れて、ただ七奈と高校生らしいデートがしたいと心から思っていた。
俺達は何とか七奈が行きたがっていた、パンケーキ屋を見つけて、パンケーキを食べた。
七奈は念願のパンケーキが食べられて幸せそうだった。
「永斗はさ、地元にいる時に制服デートとかしたの?」
「あー、、、まぁしたかも」
俺が曖昧に答えると、七奈は少し拗ねた顔をしていた。
「そうなんだぁ〜へぇ〜いいね」
「何、やいてんの?七奈だってした事あんだろ?」
「ないって。永斗以外に付き合った人いないもん」
俺は、少し驚いた。七奈は俺の前に彼氏の一人、二人いたんじゃないかと思っていた。
「そうかぁ、、、永斗の初めては私じゃないのかぁ。それは寂しいなぁっ。てか悔しいなぁ」
七奈が少し寂しそうに氷を鳴らしてジュースを飲んだ。確かに付き合った子は何人かいたが、七奈は俺にとってその子達とは別次元だった。
"恋"と簡単に語れない程、この感情は深く暗く切なかった、、、。
俺達はその後渋谷の街をブラブラ歩いて雑貨屋に入った。
最初は好きなキャラクターを見ていた七奈が、レターセットの売り場で足を止めた。
「永斗、一緒にレターセット買おうよ」
「レターセット?」
「手紙を送るの。相手が落ち込んでる時に元気が出るような文を書いてプレゼントするの」
文をプレゼントすると言う表現が変わっていて、七奈らしいと思った。
「いいけど、俺手紙書くの苦手なんだよな、、、」
「なんで?言いたい言葉をそのまま文字にすればいいだけだよ?永斗好きな色何?」
「、、、緑?」
「はい!じゃあこれ緑のレターセットね。私は水色が好きだから水色にするね」
そう言って七奈はレターセットを買ってしまった。俺達はその後、七奈の家に行った。
何回か七奈の家に遊びに行った事はあったが、七奈の母親はまだ帰っていなかった。今日は俺がくるから、ご馳走様を買って帰ると張り切っていたのを思い出した。
二階の七奈の部屋へ行くと、夕陽が部屋にさしこんでいて、真っ赤に染めていた。
七奈の部屋のベランダから外を見ると、富士山が小さく見えていた。あの麓に俺の家があると思うと、果てしなく遠い気がした。
俺は静かに暮れ行く夕陽をただ眺めていた。
「永斗、お茶持ってきたよ」
七奈がそう言って部屋に入ってきた。七奈の顔をみた瞬間、俺は涙が溢れてきた。七奈が俺を見て、一瞬で顔を歪ませて言った。
「永斗、どうしたの?」
七奈は俺を抱きしめて、七奈も泣き出した。
多分、何も言わなくても俺の気持ちが七奈にはわかったんだろう。
今日という幸せな日が終わってしまう事が、どうしても耐えられない程に辛かった。
俺と七奈の時間がどれだけあるかわからなかったが、この時間をもう少しだけ伸ばして欲しかった。
俺と七奈は、泣きながらキスをしてベッドで抱き合った。
もう、未来とか将来とかそんな物にいっさい期待はしないから、俺はただ七奈の一部になりたかった。
この身体がいずれ朽ちてなくなるのならば、心だけはずっと離さないで、繋いだままでいたかった。
満たされた幸せには、必ず悲しみが付き纏い、それは絶対に切ってもきれない、矛盾だらけの俺達の愛だった。



