東京へ帰ると私は疲れが溜まっていたのか、自分の部屋でぐっすり眠っていた。
眠っていると夢を見た、、、。
 その夢には永斗君が出てきた。永斗君は白い服を着て泣いていた。
 私はその姿を見て、胸がぎゅっと苦しくなる思いがした。私は泣いてる永斗君を抱きしめようとするけれど、なかなか抱きしめる事が出来なくて、しまいには私まで泣いてしまった。
 
 "死ぬまで俺の側にいてくれよ"

永斗君の声がして目が覚めた。
私はぐっしょり汗をかいていた。自分の手を見ると少し震えていた。私は一度深呼吸をして息を整えた。気温の低い富士山の麓に比べたら、東京はまだまだ蒸し暑かった。
 私はエアコンを切ってベランダに出ると、夕日の中に遠く富士山が見えていた。
 キャンプ場で過ごした事が夢のように、蝉が弱々しく鳴いていた。

 大学が始まると、私は忙しい日々が続いた。
西海さんの働いている会社でのインターンも始まり、私は大学とインターンで急にハードスケジュールになった。
 私が働きだした会社は『シャーク』というWEB漫画制作スタジオで、インターンでも関係なくどんどん制作に関わる事が出来た。
インターンのうちに、漫画をリリースした人までいて、かなり実力主義の職場だった。
 けれど同じチームの皆んなが『とにかく面白い話しをつくりたい』という思いが強く、私もその熱量に触発されて、どんどん創作意欲がわいてきた。人前で意見を言うのが苦手だった私が、物語の事ならどんどんアイディアを出せた。
 私はそんな充実した毎日を過ごしていながら、永斗君とも連絡を取っていた。
 他愛もないメッセージを送りあったり、時間があれば電話をした。
 
 永斗君によると、岸さんが腰を悪くして休んでいて、代わりのバイトの子を何人か雇ったと言っていた。私は永斗君に会いにいきたいと思っていたが、忙しく、気がつけば季節は移り変わり、十月も終わりに近づいていた。
 今の仕事が終われば、少し暇になるので、それが終わったら秋キャンプに行きたいと思っていた。
 
 その日は、三ヶ月に一度の脳神経外科の検診の日だった。私は手術後も病院で定期的に、経過観察をしていた。この日も検査をして診察を終えると、宮下さんに会いに行った。
 病棟へ行くと宮下さんがナースステーションにいたので、声をかけた。宮下さんがナースステーションから出てくると、ティールームで少し話しをした。

 「七奈ちゃん、今日検診?」

 「そうですよ。検診ですよ、宮下さん忙しそうですね」

さっきまでナースステーションで、せわしなく働いていた宮下さんを見ていたので、そう言った。

 「そうなのよ。入院やら急変で今日はバッタバタだったのよ、やっといま一息つけた!七奈ちゃん、インターンの方はどうよ?」

「毎日忙しいですけど、楽しいですよ!来週には、私のチームの漫画がリリースされるんです。
私は、そこまで関われなかったんですけどね。
 でも楽しみです!!」

「そう。良かったね、楽しいと思える物が見つかって。楽しければ頑張れるからね」

宮下さんの言う通り、私は漫画なんて興味はなかったが、今は毎日何本ものWEB漫画を読んでいた。最初は勉強の為に読んでいたが、今ではすっかりはまっていた。

 「キャンプ場の子とは続いてるの?」

私は、宮下さんに永斗君との事を話していた。宮下さんが薦めてくれたキャンプ場に行って、私はそこで働いている永斗君に恋をした事。
帰ってからも、連絡を取っている事を話すと宮下さんは少し驚いていた。

 「連絡はしてます。本音を言えば今すぐにでも会いたいんですけど、、、。漫画がリリースされたら、ちょっと時間が空くのでまたキャンプ場へ行ってきます」

「そうなのね。まあ、無理しないで、身体には気をつけてよ」

宮下さんが少し心配そうに私に言った。帰り際、私は少し病院の屋上へ出た。この病院は、新棟と旧棟にわかれていて、新棟は旧棟より高さが低くく、屋上に出る事が出来た。
 私は入院中によく、この屋上で本を読んでいた。外へ出られない私はせめて、外の空気に触れたくて、よくここへ来ていた。
 私が、屋上で外の景色を眺めていると、不意に私の頭上に影を感じた。上を見上げると紙飛行機が落ちてきた。

 私は、緑の折り紙で折られたその紙飛行機を拾いあげて、辺りを見渡した。私以外に、誰もいなく、誰が飛ばしてきたかわからなかった。
けれど、私は頭が急にピリッとして、何ともいえない違和感を感じた。
 
 (こんな事が前にもあったような、、、)

けれど、その先を思い出そうとすると私はもやがかかったように、上手く思い出す事ができなかった。

 私は、屋上から見える夕日をみて、急に心ぼそくなっていた。胸の奥から不安が込み上げてきて怖かった、、、。

 その、胸騒ぎのように感じる出来事があった三日後に、それが的中したかのように永斗君からメッセージがきた。

 メッセージは『やっぱり他に好きな人がいるから、これ以上連絡する事は出来ない』という内容だった、、、。