八月も終わりにさしかかり、私がキャンプ場を去る日も近くなっていた。
私は永斗君と会えなくなるのかと思うと、寂しさから胸が苦しくなった。
あれから私達は、恋人同士のような、そうではないような曖昧な関係になっていた。
 はっきり付き合うとか、そんな話しはしなかったが、休みの日には二人で出かけたり、夜は夜通し二人で話したりしていた。
 やっている事は恋人同士と何ら変わりはなかったが、永斗君が私との関係を曖昧にしておきたい気がしていたので、私はあえて何も言わなかった。
 よく考えたら『遊ばれてるだけ?』と思うような気もするが、私はそんな風に思わず永斗君が私に愛情を注いでくれている気がしていた。

 私がキャンプ場を去る前日に、岸さんが私に手料理を振る舞ってくれた。美味しそうなステーキに、ピザに、カルパッチョ、どれも料理は美味しかった。

 「七奈ちゃんがいなくなると寂しくなるな」
 
 岸さんが、皆んなで料理を食べているとぽつりと言った。その一言で、私も寂しくて悲しくなった。このキャンプ場でこの夏を過ごして、私はあんなに死にたいと塞ぎ込んでいたのに、嘘みたいに元気になる事が出来た。
 それは、ここから見える綺麗な景色だったり、このキャンプ場で出会った、沢山の人達のおかげだと思った。

 「もっとここにいたかったな」

私が言うと永斗君が私に言った。

 「七奈ちゃん、十分元気になったよ。自分のやりたい事も見つけたし、名残惜しいくらいが丁度いいよ。大丈夫、帰ってもやっていけるよ」

「そうだな、、、。去り際は、寂しいが門出だな、、、今日は飲むか!」

岸さんがそう言って、珍しくワインを持ってきた。ここで、アルコールを飲むのは初めてだった。岸さんは、今日タクシーで帰るからと言ってなかなかのペースで、ワインを飲んでいた。
 私と永斗君もつられて一緒に飲んでいたら、気づいたら、二人していい感じに出来上がっていた。
 岸さんの、タクシーが来て見送ると永斗君が近くのベンチに座りこんだ。
永斗君は今日は、だいぶ飲んでいてかなり酔いがまわっているみたいだった。
 
 「大丈夫?飲みすぎだよ!今お水持ってくるから横になってなよ」

私が言うと永斗君は「う〜ん」と言って、ベンチに寝転んだ。

 「永斗君、ほらお水だよ」と私がペットボトルを差し出すと、永斗君が急に私の首に抱きついてきた。

 「何が『七奈ちゃん』だよ。七奈だろ?」

永斗君がいきなり抱きついてきて、そんな事を言うので、私はわけがわからなかった。

 「永斗君、酔っ払いすぎだよ。酔っ払うと悪酔いするタイプなんだ」

「永斗"君"って何だよ。永斗だろ?」

「急にどうしたの?呼び方そんなに重要かな?」

「重要だよ。、、、七奈、どこにもいくなよ、、、」

「え、、、?」私は胸がどきっとした。

「俺の事忘れるなよ、、、他の男になんていくなよ」

永斗君が言ってる意味がわからなくて、私は一瞬止まってしまった。

 「何言ってるの?忘れるわけないでしょ?
他の男になんていかないよ、、、」

私がそう言っても、永斗君は目を閉じて何も言わなかった。私は胸騒ぎがするように、胸がざわついた。
 そのまま、永斗君が眠ってしまいそうだったので、私は無理矢理おこして、部屋に連れて行った。

 「永斗君!ほら、歩いてよもうすぐ部屋だから」

「だから、永斗だって」

「はいはい、永斗」 「はい、よく出来ました!」

私が永斗君のベッドまで連れていくと、永斗君が私をベッドに押し倒してきた。
永斗君が私を見つめて、止まったかと思うと私の頭を撫でて言った。

 「七奈、、、愛してる」

えっ、、、?

 「死ぬまでずっと側にいてくれよ、、、」

そう言って永斗君が私を抱きしめた。
永斗君の匂いに包まれて、頭の奥の方が痺れる感覚があった。

 「永斗、、、?」

私は嬉しいはずなのに、何故か涙が溢れてきた。胸が苦しくて、苦しくて仕方なかった。
永斗君はそのまま私を抱きしめて眠ってしまった。永斗君の顔を見ると、目に涙が溜まっていた。その顔を見て、私はまた苦しくて不安が襲ってきた。