次の日、翔也は東京へ帰っていった。翔也との長い恋愛関係に終止符を打って、これで私達の関係は本当に終わった。
 いざ、別れてみると寂しさや虚しさは勿論あったが『これでよかった』と素直に思える自分もいた。

 今日も、猛暑になると言われていて、夏が最後の本気を出すように気温が上がっていた。蝉がこれで最後といわんばかりに、激しく鳴いていた。どんな物にも必ず終わりはあって、そして必ずその"終わり"には寂しさが纏う。

 永斗君と私は、岸さんのご贔屓にしている牧場から、チーズと牛乳を貰いにきた。
牧場では、広大な青々とした牧草が風に揺れていて、そこに気持ち良さそうに、馬や羊などが自由に放牧されていた。
私と永斗君は、牧場のオーナーさんからサンドイッチを頂いたので、木陰で食べる事にした。
 
「うん、美味しい!チーズがめちゃくちゃ美味しい!」

「本当だ!流石牧場のチーズ!」

私達は感動しながらサンドイッチを食べていると、まるでピクニックしているみたいだった。
ハーフパンツを履いていた私の足に、草が当たってくすぐったかった。
目の前で、のんびりしている動物達を眺めているとなんだかこちらまで眠くなってくる。
私が黙っていると、永斗君も眠くなったのか、隣りで眠そうに頬杖をついて、目が半分とろーんとしていた。
 心地よい風が吹いて木々が揺れると、私はそんなまどろみの中にいる永斗君の事が愛しく思えて、胸の辺りがぎゅっとした。

「ねぇねぇ、永斗君?」

「ん、、、?なあに?」

「ねぇ、、、」



「、、、大好き、、、」



 眠そうににしていた永斗君の目が、驚いたように開いて私を見た。

 「目、、、覚めた?」

 「覚めた、、、え?冗談?」

まだ驚いた顔をした永斗君が私に向かって言った。

「うんん。本気のやつ、、、」

私と永斗君は見つめ合うと、二人の間に心地よい風が吹いた。

「彼氏とより戻さなかったの?」

「お別れした、、、好きな人が出来たから」

「何で、、、」

 永斗君は少し困ったような顔をして、戸惑っていた。

 「自分の心が動く方に決めたの。私の心を動かすのは永斗君だよ。永斗君の事が、、好きです、、、」

 実らないとわかっていても、気持ちを伝えたかった。 
 『あなたが好き』だとわかっていて欲しかった。

「好きにならない約束破っちゃった、、、。
私、クビかなぁ〜。クビでもいい!だって言いたかったんだもん」

「大好きです!!」

私は牧場に向かって叫んだ。気持ちが溢れ出して止まらなかった。ずっと我慢していた、自分の気持ちを永斗君に伝える事を。けれど私は命の儚さを知っている。
 今、伝えなければもう一生伝えられない事だってあるかもしれない。
 後悔したくなかった。嘘をついてやり過ごしたくなかった。

 「言えた!!」私が永斗君に向かって笑うと、不意に永斗君が私を抱き寄せた。

 「永斗君、、、?」

 永斗君に急に抱きしめられて、私は息が止まりそうだった。

「流石にずるくない?」

「ずるい、、、?」

「こんなに可愛いと我慢できないんだけど」

私は永斗君の匂いに包まれて、腕の中で笑った。

 「可愛かったか、、、?」

 「うん、ありがとう、、、」

永斗君が急にお礼を言ってくるのが面白かった。永斗君が、私をどう思っているかはわからなかった。
 けれど、牧場から車に戻る時、永斗君は私の手を取って歩いた。繋いだ手が痺れるように、私はどきどきした。私は、永斗君の長くて綺麗な手が何よりも好きだった。
 どうか、もう離さないで私はずっとこの手を繋いでいたかった。