シャワーを早めに浴びて、私は自分の部屋へ戻った。外は相変わらず、大きな唸り声をあげて風が吹き荒れ、激しい雨粒が地面を打ちつけていた。雷もどんどん近づいてきていて、時折り明らかに何処かへ落ちる音がした。

 私はベッドの横に懐中電灯をおいて、布団に入って本を読んでいた。読みかけの小説があったので、それを読んでいたが外が騒がしいのであまり読書に集中出来なかった。
 その時、バリバリバリッッッ─────
という大きな音がして、ド────ンッ!!!
と身体を突き抜けるような巨大な音がした。
 私はあまりの音に、思わずびっくりして耳を塞いだ。その瞬間、部屋の蛍光灯がゆっくりチカチカとして、そのうち消えてしまった。

(停電、、、、何処かに落ちたのかも)

 部屋は一瞬にして真っ暗になった。窓の外の雷の光りだけが、明るく暗闇を照らしていた。

 またバリバリッッという音が聞こえたので、私はまた耳を塞いだ。

 その時、廊下から声がした。

 「七奈ちゃん、大丈夫?」永斗君が心配してきてくれたみたいだった。私はベッドの横の懐中電灯を手に取り、部屋のドアを開けた。

 「停電みたいだね、一人で怖くない?こっち来る?」

私は永斗君の顔を見て、余りの雷の激しさに少し不安を感じていたが、ほっとした。私が「行く、、、」と言うと永斗君が私の手をとって、受付まで連れていってくれた。
 私と永斗君は受付のソファーに座って、沢山のランタンに火をつけた。

 「綺麗だね、なんかロマンチックだ」

ゆらゆらと揺れる炎を見て私がそう言うと、永斗君がコーヒーを淹れて持ってきてくれた。

 「確かに。はい七奈ちゃん、コーヒー飲みな」

「ありがとう」 私は永斗君からコーヒーを受け取って一口飲むと気持ちが落ち着いていった。
さっきと同じように外では雷が鳴り響いていたが、永斗君と一緒だと全然怖くはなかった。

 「七奈ちゃん、さっきめちゃくちゃ強張った顔してたよ。雷怖かったんでしょ」

永斗君がおかしそうに笑って、私の隣りに腰をおとした。

 「ちょっとだけね。ちょっとだけ怖かった。でも、もう大丈夫」

「七奈ちゃん、本当に怖がりだな〜」

「永斗君が怖がらなさすぎなんだよ、、、」

その時また大きな雷が落ちる音がした。私は目を瞑って思わず隣りに座っている永斗君の腕にしがみついた。

 「七奈ちゃん、、、?」

私が顔を上げると、永斗君の顔がすぐそこにあって心臓が跳ね返った。
 直ぐに離れようと思ったが、永斗君と目が合うと私は永斗君の瞳から目をそらせなくなっていた。

 永斗君は、凄く戸惑っていたが、私から目を逸らして言った。

 「七奈ちゃん、流石に近くない?ちょっと離れようか、、、」

確かに私と、永斗君はソファーでぴったりくっついていた。けれど、そんな事を言われても、私はもう永斗君から離れたくなかった。
  
 「やだ、、、。近くにいたい」

別に永斗君が私の事を好きじゃなくてもいい。
他に好きな人がいたって構わない、、、。

「やだって何、だめでしょ。ほら離れて」

「近くにいたいの」

「なんで?どうしたの急に」

ドキドキして手が震える、、、。永斗君が困っているのはわかる、、、けど気持ちを止められなかった。

 「なんでって、、、」

そんなの好きだからに決まってる。喉から言葉が出かかるのを、必死に堪えた。

 「ただ、永斗君の近くにいたいだけだよ」

私は永斗君の手を握った。
それまで戸惑っていた永斗君の表情が変わった気がした。

 「俺も一応男なんだけど、、、わかってる?」

顔が熱かった、、、緊張して声が震える。

 「わかってるよ。、、、私、永斗君ならいいよ」

永斗君が私の目を真っ直ぐに見つめた。
愛情なんていらないから、ただ今だけでも永斗君の温もりが欲しかった。

「マジで言ってる?」

「うん、、、」私が言うと、永斗君が私をゆっくりソファーに押し倒して、私を見つめた。

  「本当にいいの?知らないよ?」

永斗君が私の顔に近づいて、唇が触れそうになった時、、、いきなりパッと部屋の明かりがついた。

 私達は、一瞬止まった。そして永斗君が我に返ったように私から離れた。

 「やっば──、、、、」

永斗君が一人顔を押さえて、慌てていた。

 「ごめん!俺、まじで何やってんだろ!七奈ちゃんに手出しそうになってたわ!」

私はまだ心臓がバクバクしていたが、何ともないふりをした。

「焦った?」

「流石に焦るだろ!辞めてよ〜何誘惑してんだよ!」

「冗談だよ。永斗君、一応私の事、女だと思ってるんだ」

「いや、そりゃそうだろ。あんな近かったらやばいだろ。あーびっくりした!何か暑いから水飲むわ」

永斗君はキッチンへ行ってしまった。
私は、少し涙ぐんだ目を永斗君にはわからないように擦った。