帰り道も、私は父の背中に掴まってバイクに乗って帰った。まさか自分の父親のバイクの後ろに乗って走る日がくるなんて思いもしなかった。
神様は時に、私に驚くようなサプライズをくれるんだと思った。
 私の父は探究心に溢れ、勇気や行動力のある大きな人だった。家庭人としては、向いていなかったのかもしれないが、父なりの愛し方で、私を大切に思っていてくれてたのはわかった。
 
 キャンプ場に着くと、父は荷物を積んでその足で帰ると言った。明日にはまた海外へ飛び立つ事になっているようだった。
私は、せっかく会えたのに父が、また遠くへ行ってしまう事が寂しかった。もっと聞きたい事や話したい事が沢山あった。

 「何かあったら、連絡して。電波があれば、すぐに返信するから。僕もメッセージを送っていいかい?」

父がそう聞いてきたので私は「うん!」と返事をした。そしてヘルメットを返そうとしたら、
「それは七奈が持っていて。また一緒にバイクに乗る時に、それを被ればいいから」と言ってくれた。

 「七奈、七奈に名前をつける時、七はラッキーセブンで幸運が訪れるようにとか、幸せが沢山あるようにと思ってつけたんだが、わざわざ『奈』という漢字をつけたのは意味があってね、
『奈』という漢字は、反意語や疑問文で使われる場合が多いから『何にでも疑問を持って色々な事に興味を持って欲しい』とか『自分の気持ちをちゃんと人に伝えられるような人になって欲しい』と思ってつけたんだ、、、」

 『うちに秘めた思いを伝える人になりたいんだね』

私が物語を書きたいと言った時、父は私にそう言った。

 「七奈は名前の通り、僕が望んだような人になってくれたんだね」

 「、、、なれているかな?自信ないけど」

私が少し不安げに言うと、父が私の頭を優しく二回ポンっと叩いた。

 「なれるさ。物語が出来たら一番に見せてくれ。楽しみにしてるから」

 「わかった、、、」

まだ不安はあったが、私は父と約束した。
そして私は一つ気になっていた事を聞いた。

 「あの、私に手紙をくれた?緑色の封筒に入ってる手紙で、消印が東京だったんだけど」

私が聞くと、父は不思議そうな顔をした。そして軽く首を振った。

 「僕じゃないな、何せ東京へは殆ど帰っていないから」

(あの手紙は、父からではなかったのか、、、じゃあ、誰なんだろ)

 「じゃあ、七奈、元気でな」

父がバイクに跨ってエンジンをかけた。

 「お父さんも、元気で気をつけてね」

私の"お父さん"という言葉に父は驚いた顔をしたが「ありがとう」と微笑んで、バイクで走り去っていった。
 私は、その姿をしらばらく見つめていた。

 「七奈ちゃん」振り返ると永斗君がいた。

 「田中さん帰っちゃったんだ」

「お父さんだった、、、」

「そっかぁ」永斗君は驚きもせずに私に言った。

 「なんでびっくりしないの?田中さんは、私の実のお父さんだったんだよ?」

 「いや、驚いてるけどさ?田中さんと七奈ちゃん顔が良く似てたよ?だから親戚かなんかかと思ってた」

 永斗君の発言に、逆に私の方が驚いた。
私と父は顔が似ているんだろうか?全然自分では気づかなかった。

 「でも、良かったね。お父さんに会えて。しかもあんなにかっこいいお父さんで、自慢じゃん」

「うん。本当に会えてよかった。お父さんに言われた『生きててくれて、ありがとう』って」

「そうだよ。子供がただ生きてるだけで、親は嬉しいんだよ」

ただ生きているだけで、私は自分の存在を認められていた。私はずっと人に認められたいと思っていたが、もう初めから認められていたのかもしれない。

 「でも、お父さんなんで私がこのキャンプ場にいる事を知っていたんだろう」

ふと思いながら考えていると「七奈ちゃんのお母さんが連絡したから?」と永斗君が言ってきた。父と母はもしかしたら、今だに連絡をとりあっているのかもしれないと思った。