今日も永斗君は休みだった。やっぱり朝早くから出かけるようだった。
私は、出かける永斗君に声をかけた。

 「永斗君!」

永斗君は車で出る所だった。

「七奈ちゃん、おはよう。今日頼むね」

「うん!こんなに朝早くに出かけるなんて、そんなに大事な用事があるの?」

私は遠回しに、今日誰と会うか聞きたかった。
休みの度に出かけるのはデートとしか思えなかった。絶対に振り向いてもらえない片思いは、頑張りようもないし、ただただ切ないだけだった。
 けれど休みの日以外は、完璧に私が永斗君を独占しているに違いなかった。だから、休みの日ぐらいは我慢しようと自分を納得させた。
 けれど、欲を言うなら私も永斗君と何処かへ出かけたかった。普通のデートをする事を夢みていた。

 「大事な用事だよ〜めちゃくちゃ大事」

永斗君が笑いながらはぐらかすように言ってくる。私には教える気はないって事だ。

 「ふーん、、、そうなんだ。良かったね、楽しんできてね」

 私はついつい、つまらなそうに言ってしまった。胸の辺りがチクチクして、笑顔で見送れなかった。永斗君が車に乗って出る寸前に、窓を開けて私を呼んだ。

 「七奈ちゃん、次の休み珍しく被ってるよね?キャンプ用品店行きたいって言ってたじゃん?一緒に行こうよ」

 私はその一言で、もやもやしていた気持ちが一瞬で吹っ飛んだ。

 「行く!!」

私が前のめりで返事をすると、永斗君が「決まりね!じゃあっ」と言って車を走らせた。
心臓がドキドキしていた。こんなに私の気持ちを昂らせる事が出来るのは、永斗君しかいないと思った。
 私はそのままハイテンションで仕事を始めた。別に永斗君はデートだとは思っていないだろうが、そんな事はもうどうでも良かった。
私にとってはデートに違いないと思っていた。

 私は湖サイトのゴミ拾いをしていた。
今日も、猛暑でお客さんはまばらだった。私がゴミ拾いをしていると、一人の中年のおじさんが目に入った。
 その人は何泊かこのキャンプ場に延泊していた。余程このキャンプ場が気に入ったのか、湖畔のサイトで椅子に座ってゆっくりしていた。
大きなバイク一つでやってきて、白髪混じりの毛を一つに束ね、ワイルドな印象だった。

 そのおじさんが私に話しかけてきた。
「この湖、釣りはできるのかな」落ち着いた低い声でそう言った。私は最初、自分に聞かれていると思わなかった。その人がサングラスをかけて椅子に腰を掛けたまま話しかけてきたからかもしれない。
 けれど、その場には私しかいなかったので、慌てて返事をした。

 「釣れるみたいですよ、ヘラブナが釣れるらしいです。ボートの貸し出しをすぐ近くのレストハウスでしてますよ」

「そうか、、、行ってみようかな」

「是非。このキャンプ場を気に入ってくれたんですか?」

「そうだね。とても気に入ったよ。静かで、平和でとてもいいね」

そのおじさんがサングラスを外すと、優しそうな目が見えた。私は何故かその目に惹かれるものがあった。