「あのさ、偶然なんだけど、あの棚にある本私も大好きな本ばっかりなんだよね。全部同じ本私も持ってる」

永斗君は驚いた顔をして、私を見た。
好きな音楽もたまたま一緒で、こんな偶然があるのか不思議だった。

 「趣味合いすぎじゃない?何か一冊でも持ってない本あるでしょ」

永斗君が疑うように言ってくるが、私は確認したが、全て持っていた。私は趣味が読書なので私の方が持っている本が多いからかもしれないが、それでもこの棚にある本は、私が特別好きな本ばかりだった。

 「ない。全部うちにある、、、特にこの『時間泥棒キキ』は大好きで何回も読んだよ」

「そうなんだ。俺もこの本大好きなんだよね。児童文学だけど、凄く奥深い話しだよね?
キキは最後親友のまゆ子に自分の寿命をあげちゃうけど、幸せそうに天国へ旅立つシーンが綺麗に柔らかく表現されていて大好きなんだよね」

永斗君がそう言いながら、本をめくって愛おしそうに眺めていた。

 「初めて読んだ時は、凄く悲しくて、キキが可哀想で、私は泣いちゃったけどね。『キキは本当に自分の寿命がなくなっていいの!?』って自分がキキなら、絶対に同じ事は出来ないと思った、、、むしろ、泥棒の悪人から時間を奪っちゃいたいって思ってた、、、」

「だけど、その悪人も本当は悪い人間ではないんだよね。守りたい小さな妹がいて、守り方を間違えて泥棒をしてるっていうね」

 完璧な善人がいないように、完璧な悪人もいない、だからこそキキは誰からも時間を奪えなくて葛藤する。

 「永斗君、私高校生の時に病気になって入院してたの。その時この本を読んで、自分の寿命と時間について凄く考えたんだよね。
 もし、私がこの病気で死ぬ事がなければ、残された時間を絶対に無駄にせず、自分の生きる意味を見つけて何かを残したいって、、、そう思ってたのを、この本をここで久しぶりに開いて思い出した」

 あの時は自分の命の有り難みを深く感じる事が出来ていたのに、いつから私はその命が重く苦しい物だと思うようになっていたんだろう。

 「七奈ちゃんの、残したい物って、七奈ちゃん自身の言葉であり文章なんじゃない?
 七奈ちゃんが嫌がってる、その自分の弱さだったり、敏感さは文章を書く為には絶対に必要な繊細さだと思うよ。だからメンタル弱くて逆にラッキーなんだよ」

「ラッキー、、、?」

「ラッキー!!ラッキーセブン!!挫折したり、後悔しても大丈夫!全て七奈ちゃんの書く為の糧になってるって」

 永斗君に言われると、そんな気がしてくるから不思議だった。ただ、弱い私のままでいいのだと認めてくれている気がして嬉しかった。
 
「ねぇねぇ、永斗君私、何か物語を書いてみようかな」

「書くべきだと思うよ」

永斗君が笑ってくれるだけで、私は何でも出来るような気になった。そして、自分の心が今までにないくらいにワクワクしていた。