次の日、美優と大我君は一日富士山周辺を観光して、翌日の朝早くに帰る予定になっていた。私はバイトの日だったので、朝早くからいつも通り掃除をしたり、予約の確認をしたりしていた。永斗君は一日休みだったので、朝早くから何処かへ行ってしまった。
 永斗君は自分がオフの日は、決まって朝早くから何処かへ出かけていた。
私はいつも何処へ行くのか気になっていたが、何となく直接本人に聞く事は出来なかった。
 ただ、いつも少し綺麗めな格好をして出かけるので、もしかしたら好きな人と会っているのかな?と思っていた。

 永斗君をそんなに夢中にさせる女の子は一体どんな女の子なのか、私は凄く気になっていた。
見てみたいようで、見たくない、、、。
何故か複雑な気持ちでいた。

 今日は土曜日という事もあり、チェックインのお客さんが沢山いた。私は受付で一人、てんてこ舞いになっていた。
岸さんは、サイトの誘導に出ていて私は受付を一人で捌いていた。
 そこへ大学生くらいの男の子のグループの団体がチェックインに来た。

 「テントが二張りの、合計十名でよろしいですか?」

私が確認すると、ロン毛のいかにも陽キャな感じの男の子が代表で受付用紙の紙の記入に来た。

 「そうです!タープも二張りなんですけどいいですか?」

「大丈夫ですよ!じゃあ、校庭のサイトでA-12とA-13になりますね」

私がそう言ってゴミ袋の用意をしていると、ロン毛の男の子が話しかけてきた。

 「お姉さん!お姉さん!ちょっとこっち向いて!あっ、七奈ちゃんって言うんだ」

私の名札で名前を確認したようだった。私はいきなり名前で呼ばれて少し戸惑った。

「あー、、、はい。七奈です」

「七奈ちゃん。可愛いね、俺超タイプです」

「あー、、、はい。ありがとうございます」

 後ろにいる男の子達が、次々にヤジを飛ばしてくる。

「タイチ!いきなりナンパやめろよ!」

「こいつ、マジで凄いな!強靭なハート持ってるわ」

「七奈ちゃん、ごめんね!」

そんな事を言われて、私はとりあえず作り笑いをして流していた。
なんて軽いノリなんだろう、、、。まあ、大学生なんて皆んなこんな感じなのかもしれない。
私がそう思っていると、私に最初に話しかけてきた"タイチ"と呼ばれていた人が、私の方へ近づいてきていきなり小さな声で話しかけてきた。

 「俺、本気で七奈ちゃんタイプだから。夜会えない?」

そんな事言われても、なんて答えたらいいかわからなくなって戸惑った。

 「いや、夜まで仕事なんで、、、」

私が曖昧に答えると、後ろから男の子達が叫んでいた。
 
 「タイチ!しつこいぞ!ほら早くいくぞ」

そう言われて"タイチ"と言われる人は渋々皆んなの所に行ってしまった。
(こんな感じの軽いノリで恋愛するのも楽しいんだろうか、、、。)

私はふと思った。真剣に付き合えばそれだけ駄目になった時のダメージは大きい。
私は今でも、翔也が他の女の子とキスをしていた場面をすぐに思い出す事ができた。
あんな思いはもう二度と勘弁だと思った。
 もし次恋をするなら、中身のない軽い恋愛の方がいいのかもしれないと馬鹿みたいな考えが頭をかすめた。