富士山カレーは、見た目こそ青くて富士山だったが、味は普通のカレーだった。見た目と味が合っていない気がして、私と美優は思わず笑ってしまった。ご飯を食べた後に、富士山が見えるカフェでコーヒーを飲んだ。

 「永斗君がさ、凄くコーヒーを淹れるのが上手なんだよね。私が何回か、淹れたんだけど私じゃあの美味しさは出せないんだよね。
 特別な事はしてないって言ってたけど不思議じゃない?」

美優はカフェオレを一口飲んで私を見た。

 「ああ、確かに永斗君ってコーヒー淹れるの上手そうだよね。彼自信が、なんかこう、癒し系?そんな感じするよね」

「癒し系、、、言われてみればそんな感じ。私、いつの間にか永斗君に癒されてるかもしれない」

「そう。貴重だよ、ああいう人は、人を癒す能力って一種の才能だよ」

美優はそう言って、また富士山を眺めた。
美優はキャンプ場に来てからずっと元気そうだったが、たまにぼーっと物思いにふけっている時があった。私はなんとなく気になって美優に聞いてみた。

 「美優は、何かあったの?一人でキャンプなんて何かなければ普通こないでしよ?」

美優は私の言葉に少し驚いているみたいだったが、私の顔を見ると少しだけ微笑んだ。

 「何?七奈ってば随分するどいじゃん?まぁ、確かに《《何かが》》あったから、一人でこんな富士山の裾野のキャンプ場に来たんだけどさ」

「聞いてもいいの?一人でキャンプに来た理由」

私が聞くと、美優は少し照れくさそうな顔をしたが「たいした事じゃないよ」と言って笑った。

 「昨日、私同棲してる彼氏がいるって話したじゃん?」

「うん。金融系で働いてる同い年の彼氏?」

「そうそう、大学が一緒だった大我(たいが)っていう名前なんだけど、大我と大喧嘩しちゃってさ、何となく二人の家にいたくなかったんだよ」

そうか、そんな理由があって三泊もキャンプに来たのか。

 「どうして喧嘩しちゃったの?、、、まさか浮気!?」

 「いやいや、それはないよ」

美優に限って、そんなロクでもない男と付き合うとは、確かに思えなかった。

 「じゃあどうしたの?」

「いやさ、何か同棲始めたら大我の色んな部分が見えちゃってね。まあ、主に悪い所?」

 「成る程〜一緒に生活するのって憧れるけど、大変そうだもんね。喧嘩くらいするよ」

私と翔也は同棲こそしなかったが、一緒に住んだらきっと合わなくてぶつかり合ったりしたかもしれない。

 「私がきちきちっとし過ぎなのかな?大我のルーズな所に目がいっちゃって、せっかく一緒に住んだのにイライラしっぱなし。
 家事全般を私がやってる感じだし、仕事から帰ってきて家が汚いと心が荒むのよ。私は大我のお母さんになったわけじゃないのに、小言ばっかりいってさ、全然一緒に暮らしてて楽しくない」

 美優はそう言って頬杖をついた。

 「それ、ちゃんと話したの?お互い働いてるんだし家事折半しようって」

「話したけど『俺は家汚いのとか全然気にしないし、そんな事でイライラされたら心が休まらない』って」

 「なるほど、それはきついね、どちらか歩み寄らないと解決しないやつだ」

「でもさ、結婚する前にわかって良かったかなって、結婚してからだと合わなくてもなかなか離婚するのは大変じゃん?やっぱり結婚前に一緒に住むのおすすめするよ」

なんだか美優の口ぶりがもう別れる前提だったので少し私は焦った。

 「何?美優別れるつもりなの?いいの?同棲するくらい好きだったんでしょ?」

「好きだったけど、、、七奈と一緒だよ、倦怠期ってやつ。恋愛は新鮮さを失うと後は腐ってくだけなんだよ。鮮度が大事、鮮度を失うともう二度と戻らない、関係を続けていきたいならもっとお互い努力が必要なんだよ」

後は腐っていくだけか、、、。ずっと付き合いたての様な、ドキドキする気持ちは次第に消えてしまうのかもしれない。じゃあ、残ったあとには何が残るんだろうか?