美優のテントを張った後、私は管理棟の方へ戻った。受付に永斗君がいて私に話しかけてきた。

「テント上手く張れた?」

「ばっちしだったよ。慣れたのかも?あのくらいの一人用のテントなら、すぐに張れるようになったよ」

「お〜流石だね!物覚えがよろしい」

私が夜、美優のテントへ行く事を話すと、永斗君は今日は早めにあがっていいよと言ってくれた。

 「仲いい子だったんだけど、久しぶりで少し緊張するなぁ、、、」

「そうなんだ?普通に話してたけど、随分疎遠だったんだね」

「私が高校一年生の時に喧嘩しちゃってね。それからずっと会ってなかったの。
でも大事な友達だったから会えて良かったな。仲直り出来なかった事、ずっと後悔してたから」

あれから、大学に進学して勿論友達は出来たけど、やっぱり美優以上に何でも話せる友達は出来なかった。だから何度も美優に、連絡をしようかと思ったけれど、時間がたてば経つほどに、連絡しずらくなってしまって、この年まできてしまった。
 美優は私の事、どんな風に思っていたか、今更ながら知りたい気持ちもあった。

 「恋人もそうかもしれないけど、中々自分の事を理解してくれて、相手の事も理解したいと思えるような人間に出会うのなんて、一生のうちにそんなにないのかもね。大事にしたい人ならその縁を大切にした方がいいね」

永斗君の言う通りかもしれない。もし、私の側に美優がいてくれていたら、私は就活が上手くいかなくても自殺未遂なんてしなかったかもしれない。自分の苦しい心のうちを吐き出して、美優に話して、きっと美優は私と違う角度から、励まして元気づけてくれたような気がする。
 
 「今夜は楽しんで、素直な気持ちで人に接すれば、自然と相手も素直に接してくれるはずだよ。今までの気持ち、相手にちゃんと伝えてね」

「そうだね」永斗君の言葉に励まされるように、私は頷いていた。

 そして、日が暮れて夜になっていた。永斗君が気を遣って、早めに仕事をあがらしてくれたので、その足で私は美優のテントまで行った。

 湖畔のサイトへ行くと、皆んなそれぞれにランタンに火を灯し、焚き火をしていて、その暖かな光が綺麗だった。
美優も一人で焚き火をしながら、椅子に座って本を読んでいた。
そういえば、美優も昔から読書が好きでよく本の貸し借りをしていた。

 「美優、お待たせ」

私は自分のキャンプ用の椅子を持って、美優の隣りに座った。

 「七奈お疲れ様。ごめんね、仕事終わって疲れてるのに呼び出して」

 「全然大丈夫だよ。私も美優と久しぶりに話したかったし」

私たちは、焚き火の木が爆ぜる音を聞きながら、お酒で乾杯した。
 美優がちょっとしたおつまみを作っていたのでそれも頂きながら、私達は焚き火を囲って話し出した。

 「それにしても、こんな偶然があるんだね、大人になったら、二人の趣味が重なって再会するなんて」

「七奈は、あれからどうしてたの?途中で高校辞めて、その後」

美優がビールを一口飲みながら聞いてくる。学生だった美優が、アルコールを飲んでいる姿を見るのもなんだか不思議な気がしてならなかった。

「あれからはね、大検の資格を取って、大学に行ったの。今大学四年生だよ」

「そっかあ〜凄いね。七奈はあれから頑張ったんだね。手術が成功した話しは聞いてたけど、高校中退した後は、地元の子でも七奈の事、知ってる子あんまりいなかったよね?」

「そうだねぇ、あの当時はとにかく高校へ行けてない事の劣等感がやばくて、地元の子ともわざと疎遠になってたからなぁ」

皆んなが楽しそうに、学生生活をしながら、自分は学校にもいけずに苦しい治療をしている事で私は卑屈になっていた。
 結局、美優と喧嘩したのも私の学校へ行けない劣等感と、卑屈が原因だったと思う。

 「美優、、、あの時はごめんね。私が完全に美優に当たってるだけだった。皆んなと同じように制服着て学校へ行きたかったし、学校も辞めたくなかった。だから、美優に嫉妬してたんだと思う」

私が謝ると、美優は少し笑いながら言った。

 「七奈のせいじゃないよ。嫉妬してたなら私も一緒。私、七奈に嫉妬してた」

──────えっ、、、?

 「私に嫉妬?どうして?」

美優が少し恥ずかしそうに言った。

 「私、翔也がずっと好きだったんだよね」