それから私は梅雨明けした富士山の麓のキャンプ場で、バイトを続けているうちに、就活前の自分に戻っていくような感覚になっていった。
毎日毎日、忙しかったが、逆にそれが良かったのかもしれない。雄大な自然の中で、二度と同じ日はない景色を見て、私は自分の心が健康になっていくのを感じていた。

 「う〜ん!気持ちいい!」

青々とした木を眺めながら、私は思いっきり伸びをした。日の光が、身体中に注いで心地よい風が吹いていた。

 「七奈ちゃん、コーヒー淹れたよ」

永斗君が管理棟からマグカップを二つ持って外へやってきた。

 「わーい!ありがとう」

私と、永斗君は外の椅子に座りながらコーヒーを飲んだ。昼休憩のひと時に、永斗君は必ずコーヒーを淹れてくれた。
いつもだったら岸さんも一緒に飲むが、今日は岸さんはお休みだった。

 「七奈ちゃん、仕事だいぶ慣れたんじゃない?」

永斗君がキャンプ用の椅子に座りながら、私に聞いてきた。

 「だいぶね。薪割りも板に付いてきたでしょ?なんか腕がムキムキになった気がするよ。でもスパッと薪割れると気持ちがいいよね」

「楽しいよね〜七奈ちゃんもキャンプの魅力に気づいたんだね。キャンプ沼へようこそ」

「確かに、色々ギア欲しくなっちゃうもんね。永斗君またキャンプ用品のお店に行こうよ。可愛いランタン欲しいなあ」

「いいよ。車出してあげよう、、、七奈ちゃんすっかり頭の傷わからなくなったね」

永斗君が私のおでこを、見ながら言った。
縫った後はすっかり小さくなって、よく見ないとわからないくらいになっていた。

 「わかんない?確かにあんなに傷酷かったのにね、すっかり小さくなってよかったよ。一応女の子だからね」

永斗君が、私のおでこに急に触れた。

 「一応じゃないでしょ、大事にしなくちゃ、、、」

永斗君がそう言って私に微笑んだので、私は胸がドキドキしてきてしまった。

 「永斗君さぁ、好きな人がいるのにあんまり他の人に優しくしたら勘違いされるんじゃない?よくないよ!そういうの!好きな人だけに優しくしないと、いつまでたっても振り向いてもらえないよ?」

永斗君は不思議そうな顔をして、私を見つめていた。私は今、不覚にもドキドキしてしまった自分の気持ちを打ち消すように、永斗君の反対側を見た。

「何?七奈ちゃんも勘違いしちゃうって事?」

「え?」

その時、管理棟に一人女性が来た。
私はその女性に気がついて椅子から立ち上がった。女性の顔を見た瞬間、私はその女性に見覚えがあって、驚いた。