ご飯を食べて、片付けた後夜の十時から夜間の見回りがあった。
 私と永斗君で、懐中電灯を片手に見回りをした。

「七奈ちゃん、足元気をつけて」

「ありがとう。真っ暗だね!何にも見えない」

今日は、校庭のサイトと湖のサイト、両方お客さんが入っていたので、両サイトとも見回りに、行く事になっていた。
 校庭のサイトは、特に問題がなかったので、その先の湖のサイトまで二人で歩いていった。
暗すぎて、木が風でバサバサ揺れるだけで、私はビビってしまう。

「七奈ちゃん、怖いんでしょ」

「こわ、、、い。怖いでしょ普通、こんな夜に湖の周りとか、ジェイソンが出てくるとしか思えないよ!」

「ジェイソンかぁ、確かに!考えた事なかったわ!俺はそれよりも熊の方が怖いけど、あれ?七奈ちゃん熊鈴もってきた?」

「え?ないよ」

「何でよ!何の為にかったのさ」

「永斗君を呼び出す為に買ったのかも。そういえば、あれ熊鈴だったね?」

私の発言に、永斗君が信じられない顔をする。

「大丈夫だって!熊が出たら二人で逃げよう」

「逃げたらだめなんだって、熊に会ったらこうやって、刺激しないように、熊から目を話さずにゆっくり後ろに後退してくの」

永斗君がそう言いながら、中腰になってゆっくりと後退りしていく。

 「で、声を出すなら低い声で『うぉ〜』と声を出す。やってみ?」

 私は言われた通りに、中腰になって後ろにゆっくり後ずさる。

 「で、うぉ〜って声をだす」

「うぉ〜?」と私が自分で出せる最大限に低い声を出すと永斗君がクスクス笑いだした。

 「何!自分がやらせたんでしょ?何笑ってんの!」

私がそう言った時に、私の背後でガサガサっという音がした。
 私はビクッとして後ろを振り返ると、毛むくじゃらの何かの動物が現れた。
 私は瞬時に『熊だ!!!』と思って、一瞬にして血の気が引いていた。

 「ぎゃぁー!!!」私と永斗君は気づいたら二人で叫んで走っていた。怖すぎて二人で振り返る事もせずに必死に走った。息を切らして走っていると、その毛むくじゃらの動物が私達を抜いて行った。

 「え?」私と永斗君は思わず走る足を止めた。 

 「あれ何?」

私が通り過ぎた動物を眺めて思わず聞くと、永斗君が言った。

「あれは、、、タヌキ?」

「タヌキ、、、あんな大きいタヌキがいるの?」

「多分、、、」そう言った永斗君が笑いだした。

「ってか、全然だめじゃん二人で『きゃー!』言って逃げてたじゃん!」

「いや、永斗君がね。全然落ち着いてゆっくり後退してなかったから。こんなんじゃ練習のかいなく、すぐ殺されてバラバラに食べられる未来しかないよ」

「いや、俺必死に七奈ちゃんを庇って助けようとしてたからね、見えてなかった?おとりになろうとしてたの」

「いやぁ〜、、、?」私が疑いの目を向けると、永斗君が急に懐中電灯を消した。

「何、何!!何で消すの!」

「七奈ちゃん!上みて!」永斗君が言うので空を見上げると、今まで見た事のないような星空が空に広がっていた。

「凄い!プラネタリウムみたい!綺麗〜」

「七奈ちゃん!ほら夏の大三角わかる?」

永斗君がそう言って空を指差す。指した先には確かにベガ、とアルタイルとデネブが見えていた。

「わかるよ。綺麗に見えてるね、凄いなぁ」

「夏の大三角の右下あたりに、星見えるのわかる?」

そう言われてみると確かに、目立つ星が見えていた。

 「うん。あれ?」私が指でさすと、永斗君が私の腕を掴んで方角を示した。

「あそこ、あの星」

「うん、、、確かにあるね、あの星が何?」

「あれ、はち座」

「はち座、、、?虫の?」 「そう」

聞いた事がなかったので、私は永斗君を睨んだ。

「適当な事言ってるでしょ。はちってエイトでしょ?」

「そうそう。俺の星座!七座はあるかなぁ〜ちょっと七座は知らないわ」

永斗君がわざとらしく考えこむふりをしていた。

「もうさ、適当な事言ってないで早く戻ろう!
本当に熊出てくるよ!」

「じゃあさ、熊鈴代わりに歌って帰る?」

「いいけど、何の歌?」 「俺、NEW WORLDが大好きなんだよね」

永斗君が言ったのは、私も大好きなバンドだった。

「えー!私も大好きだよ!いつも聞いてるよ」

「七奈ちゃんも?何の曲が好き?いっせのーせで言おうぜ」

「いっせーのーせ!」

『かえりみち』 私と永斗君は顔を見合わせて笑った。完全にハモっていてびっくりした。

「気が合いすぎて気持ちが悪い」

「ひでーな、七奈ちゃん!じゃあ、かえりみち歌って帰ろう!はいっ!いっせーのーせ!」

永斗君と私は歌いながら、廃校まで歩いていった。久しぶりに何も考えずにただ楽しいと思える時間だった。
 空には今にもこぼれ落ちそうな星が輝いていて、まるで宇宙を歩いているみたいな気分になった。気づけなかっただけで、こんなに綺麗なものがこの世界にはあったんだと私は知った気がした。