次の朝、私は早速オーナーの岸さんにバイトをさせてもらえないか話しにいった。
永斗君も一緒についてきてくれたが、昨日事前に永斗君が岸さんに話しをしてくれていたのか、私が行った時には岸さんは、もう了承していた。

 「高いバイト代は出せないけども、いいのかね?これから夏休みは忙しくてちょっと大変だけど、若いから大丈夫かな?」

岸さんは、優しく微笑みながら私に言った。

 「大丈夫です!頑張ります!ありがとうございます」

私は思わず、思いっきり頭を下げた。

 「じゃあ、仕事は永斗に聞いてくれ。今じゃ俺より永斗の方がこのキャンプ場のオーナーみたいなもんなんだから」

「そうそう。俺このキャンプ場乗っ取ろうとしてるからね」

 「冷蔵庫の中身は既に乗っ取られてるがな。俺の高級チーズや、ハムとかな」

「確かに!勝手に食べてるわ」

「食べてるわじゃないんだよ」そう言って、岸さんが永斗君の頭を叩いた。

 今日、母が車で迎えにくる予定だった。私は一回家に帰って、荷物をまとめてからキャンプ場にくる予定になっていた。私がこのキャンプ場で働く事を母に伝えたら驚いていたが、意外にすんなり承諾してくれた。てっきり母は反対するかと思っていたが『いいかもね、自然の中で働くのも楽しそう』と好意的だった。

 実家に帰ると、私は一カ月くらい滞在出来るように荷物をまとめた。部屋で荷造りをしていると、部屋のドアから母が私を見つめていた。

 「びっくりしたぁ。どうしたのお母さん、そんな所にたって」

私が言うと母は、少し切なそうな表情をして笑った。

 「うんん。退院してからずっと部屋で何もせずに過ごしてたのに、どうして突然あのキャンプ場で働きたいなんて言い出したの?別に反対してるわけじゃないけど、どうしてそんなに気持ちが急に変わったのかなって」

そう言われると、私もこれと言ってしっくりくる理由が見当たらなかった。あのキャンプ場で見れた景色が素晴らしかったのはもちろんあるけれど、それだけではない気がしていた。
 景色がみたいなら、また遊びに行けばいいだけの事だ。

 「お母さんも会ったでしょ?キャンプ場に迎えにきてくれた時に、あそこで働いている永斗君に」

母は小さく頷いた。母はキャンプ場に迎えにきた時に、岸さんと永斗君と少し話しをしていた。

 「何か永斗君って不思議な人なんだよね。根明?っていうの?何か楽しそうに働いてて、楽しそうに生きてて?見てたら自分もそんな風に出来る気がしてきてさ。もう少し彼が働いている姿を見ていたい気がした、、、」

 母は私の話しに、さっきと表情を変えずに黙って耳を傾けていた。

 「、、、ああ、でも別に恋愛対象として好きとか、そういうんじゃないからね。友達?元気をくれる友達みたいになれたらいいかなぁって思った」

母は何とも言えない寂しそうな顔をしていた。

 「彼と会って二日間しかたってないのに、そんな風に思ったの?」

 「そうだね。確かに、言われてみればそうだね。永斗君って人に与える影響力が半端ないのかもね」

私が少し笑って言うと母が「そう、、、」と一言だけ言ってきた。