私はいつの間に眠っていたらしい。気がつくと、ベッドの上で眠っていた。朝日が部屋に射し込んでいて眩しかった。私がベッドから起き上がって伸びをすると、永斗君の姿はなかった。教室から、外へ出られるドアがあったので、私が出ると、外に置いてあるベンチに永斗君が座っていた。朝の空気が、ひやっとしていて冷たかった。

 「おはよう」私が声をかけると、永斗君が私を手招きした。私も、永斗君の座っているベンチにいって隣に座ると、永斗君が「寒いよ」と言って毛布をかけてくれた。
 「ありがとう」と私が言うと、永斗君が目の前を指さした。

 私が、永斗君の指の先を見ると、そこには綺麗な富士山が見えていた。私は初めてこんなに間近で富士山を見てその迫力と大きさに圧倒された。

 「すごーい!!かっこいいー!!!」

私が思わず叫ぶと、永斗君がおかしそうに笑った。

「かっこいい?」

「かっこいいよ!!こんなに富士山近いんだね!びっくりした!!」

「だろ?このキャンプ場、遮るものがないから目の前に見えるんだよ。初めてくるお客さんは皆んな感動するよ」

 「でも、不思議だなぁこんなに大きいのに昨日は全く見えなかったなんてさ。見えなくてもちゃんと富士山はあったんだよね」

「うん。ちゃんとある、見えなくてもね。なんか、ずっと見てられるよな」

永斗君の言う通り、その雄大な姿に完全に私は魅せられてしまっていた。
 キャンプに来た事に昨日は、後悔していたが、この景色を見たら心から来てよかったと思った。

「同じ景色は二度と見る事が出来ないからね。今日の富士山は、今日だけ。七奈ちゃんもそうでしょ?今日の七奈ちゃんは今日だけでしょ?同じ日は二度とこないんだから」

「、、、まあ、そうかも?」

「じゃあ、チャレンジしなさい。キャンプ用品売ってる店連れて行くから、ポール買いにいこう。今日こそテントを張ってみよう」

 永斗君がそう言ってまた目尻を下げて楽しそうに笑った。この人は人を前向きにさせてしまう天才かと思った。彼の笑顔を見ていると、何故かこちらまでやる気になってしまう気がした。

 永斗君は言った通り、車で私をキャンプ用品屋さんまで連れていってくれた。

「永斗君さぁ。いつもこんなに手厚いの?」

「手厚い?」永斗君が車のハンドルを握りながら、私に言ってくる。

 「ただのお客さんに対して、優しすぎない?一緒の部屋で夜遅くまで話し聞いてくれたり、わざわざ車出してくれたり」

「いや、夜遅くまで話しを聞いてたのは、七奈ちゃんが俺に一緒にいてって言ったからでしょ?」

 「まあ、それはそうだけど、、、」

あまりにも優しすぎるので、お客さん皆んなにこんな事をしていたら大変だと思った。

 「因みに、俺は昨日七奈ちゃんの部屋では寝てないから。七奈ちゃんが途中で寝ちゃったから、ベッドまで運んでその後職員室で寝たからね。普通に危ないからね、俺はまぁ紳士な男ですから何もなかったけど、どんな男がいるかわかんないんだから、ダメだよ一緒の部屋で寝てくれなんて言ったら」

永斗君が言ってる事はまあ正論だけど、私は永斗君の事は信用出来る気がしていた。
 けれど、私の勘なんて当てにはならない。
あんなに信じていた翔也だって、浮気をしていたんだから、人間なんて皆んな安心出来ないものかもしれない。

「そうだよね。男と女なんて密室で二人にさせたらどんな事件が起きるかわからないもんだよね」

「いや?別に殺人事件がおきるとか言ってるわけじゃないよ?」

「ある意味殺人事件だよ」「え?」「え?」

 私はあの日、心を殺された気がした。物理的に人を刺さなくても人を殺せる事が出来るんだ。
それでも翔也の事を嫌いになったかと聞かれたら、はっきりイエスとは言えないだろう。
 何処かで今も翔也を求めているし、元に戻りたいと思っている自分がいる。
でもそれは、あの日より以前の"翔也"をだ、、、。
私が求めているのは、あの日より前の、私を裏切る前の翔也だけだ、、、。