僕は待つ、君の頭の片隅で

 私はその日から、実家で暫く休んでいた。
母の再婚相手の智樹(ともき)さんは、嫌な顔をせずに「ゆっくり休んでいってね」と言ってくれた。智樹さんは、音響設備の会社に勤務していて年齢は四十代後半で、母より少し年下だった。穏やかな性格で、母との付き合いはもう八年くらいになっていた。

 私はそろそろまた、動きださなきゃいけないと思いながら、自分のやる気や感情が身体から抜け落ちて、結局何も出来ずにいた。
頭では就活しなければいけないとわかっているが、私はただその辺にある本を暇潰しに眺めていた。

 母もそんな私に何もいわず、ただ見守ってくれていた。

 私が自分の部屋でいつものようにダラダラしていると、窓ガラスにコツンっと何かが当たった音がした。
 私は何となく気になって窓を開けてベランダに出た。今日は本当に久しぶりの青空だった。
梅雨の一時的な晴れ間ではあったが、太陽が出ているだけで曇っていた私の心が少しだけ明るくなっていった。
 ふとベランダを見ると鳥の糞が沢山落ちていた。私がベランダの天井を眺めると、ツバメが巣を作っていた。巣の中では、雛鳥が何羽か顔を見せていた。

 「可愛い、、、」

 私は思わず呟いた。その時、巣の中から親鳥が現れて、真っ青な青空に向かって飛び出して行った。餌を取りに行ったのだろうか。雲一つない空を自由に気持ち良さそうに飛んでいた。

 『遠くを、見てみましょう』

 私は差出人のない手紙の言葉を思い出していた。がんじがらめの私とは違い、ツバメは自由だった。この広い青空の先にはどんな事があるんだろうか、、、。

 私の実家は少し高台にあった。この二階のベランダからは街を見下ろす事ができた。
遠くを見ると、小さく小さく富士山が見えていた。私は自分の部屋から富士山が見える事を初めて知った。

 どうして今まで気づかなかったんだろうか?
私は何故か無性に富士山を間近で見てみたくなった。ここからだとこんなに小さい富士山が、近くで見たらどれだけ大きいんだろうか?
 私は携帯を取り出して、宮下さんが送ってくれたキャンプ場の写真を見てみた。

 富士山が目の前に見えて、湖があり自然豊かなキャンプ場だった。

『行ってみたい、、、』

 そう私は思っていた。キャンプなんかした事はないが、自然の中でただ自由に過ごしてみたいと思った。

 あのツバメのように、、、自分にもできるような気がした。

 私は迷いなく、直ぐにキャンプへ行く計画をたてた。