僕は待つ、君の頭の片隅で

 差出人の名前はない。消印は東京になっている、、、。

 私は昔にも同じ手紙をもらった事があった。
私は引き出しから、同じ緑色の封筒を取り出してみるとやっぱり同じ筆跡だった。
 大学に入学した時に、私は長かった受験勉強から解消されて燃え尽き症候群みたいになってしまった時があった。自分から一人暮らしをすると決めたのに、いざしてみたら寂しくて仕方なかった事もあり、少し落ち込んでいた時に同じように差出人のない手紙が届いた。

 今回と同じように、私を鼓舞するような内容だった。普通だったら、差出人のない手紙なんて、気持ち悪くて怖いと感じるが、私は何故か嫌な気持ちはしなかった。
 内容が、私を励ます事だったり、何故かこの手紙から私へ対する愛情を感じたからかもしれない。
 そして、私にはこの差出人に思いあたる人物がいた。

 私の父親だ─────。

私の父親は、私がニ歳の時に母と離婚してしまったので、それ以来一度も会った事はなかった。
 父はフリーのジャーナリストで、海外の危険な紛争地域を一年中取材している人だった。
 母が昔、出版社で働いている時に二人は出会って結婚したが、殆ど家に帰らない父に愛想をつかしたのは母だった。どうやら父は、海外で女の人を作っていたようで、それも離婚の原因の一つのようだった。
 母はさっぱりとした性格の人だから、私に隠さず全てを話し、父の取材した記事が載った雑誌を見せてくれた。

 父は、自分の命も危ぶまれる地域で懸命にその地域の状況を伝えていた。写真こそなかったから父の顔を見る事はできなかったが、私はその記事を見た時に、父の事を素直にかっこいいと思った。
 父親というものの記憶が殆どない私にとって、その記事は唯一の父を感じられるものだった。

 父が、母や私の事をどんな風に考えているかわからなかったが、何処かで少しでも父に愛されていたいという願望が私にはあった。
 だから、この手紙が届いた時に私はこれは、父からの手紙だと思い込む事にした。
 私が辛い時にタイミングを見計らったように手紙が届くのも、血のつながりがある親子の"かん"のような気がしていた。

 母はもしかしたら、今だに父と連絡を取り合っているのかもしれない。けれど私はそれを母に確認する事はしなかった。
 父が私に手紙を書いた事がばれて、もう二度とこの手紙が届かなくなったら嫌だったからだ。
私は手紙を荷造り用の鞄にいれて、洋服などを手早く詰めて、準備をした。