「ごちそうさまでした!」

 自宅で夕食を食べ終わった芽衣。洗い物をシンクに片づけてから、一目散にリビングルームへと走る。
 置かれているソファに勢いよく腰かけ、テレビのリモコンを両手で取った。


 あの文化祭から数日後――。
 後夜祭は大成功に終わって、後日『Honey Blue』の鳴海 冬真とそのメンバーが、冬真のクラスメイトと一緒に曲を歌ったということで話題になった。ファンやメンバーを大切にする誠実さが評価を受けて、冬真たちのユニットはますます人気がうなぎ上りだ。
 その分、彼の仕事が忙しくなり、会える時間は限られてしまった。仕事の関係で高校もたまにしか来られなくなってしまったけれど、それでも彼氏彼女として冬真はまめに芽衣に連絡をくれていた。

(いつか、彼と恋人同士だってみんなに言えたらいいんだけど……)

 アイドルとの恋愛はそう簡単ではない。いろいろなしがらみがあり、芽衣と冬真の関係は家族や一部の親しい友人以外には秘密になっている。けれどいつか、冬真の彼女として堂々と出ていけるようになれたらいいと思う。それには、彼とつりあうくらい輝いている女性にならなければいけないけれど。

「私も、将来自分がやっていきたい仕事を見つけなくちゃ!」

 自分が一番輝ける場所を見つけるのだ。冬真のように。
 芽衣はテレビの上にある時計を見る。時刻は8時。もうすぐ、冬真たち『Honey Blue』の出る音楽番組が始まるのだ。
 慌ててテレビをつけると、そこにはちょうど『Honey Blue』のメンバーが司会者の隣のソファに腰かけているところだった。ステージ衣装で着飾っている冬真の姿もある。
 メンバーが座り終えたところで、司会者が冬真たちに問いかける。

「そういえば、鳴海くんが通っている高校の後夜祭が大成功だったらしいねえ?」
「そうなんです! 俺のクラスメイトや、このメンバーも応援に来てくれて大成功だったんですよ!」

 冬真がマイクを口に当てて上機嫌に答えている。冬真がメンバーに視線を向けると、皆が親指を立てて応じていた。本当に『Honey Blue』は仲が良さそうだ。
 冬真がふと表情を改めて司会者に視線を向ける。

「その文化祭でなんですけど、俺、ちょっといいことがあって」
「いいこと?」

 首を傾げる司会者を前に、冬真は突然テレビ画面に視線を向ける。ふと彼と目が合ってしまったような気がして、芽衣はついつい顔を赤らめた。その冬真が、まるで芽衣に伝えるように、こちらをまっすぐに見て幸せそうに笑む。

「俺、その後夜祭で、大切な人を見つけました」
「へ? それはもしかして、彼女ができたっていう――」

 度肝を抜かれた顔の司会者を尻目に、冬真が芽衣に向かって大きく手を振った。

「芽衣、見てる? 正式に発表して迎えに行くから、待ってて!」

 ――って、そんな堂々とお茶の間に発信しなくても!

 なんてひやひやもしたけれど、冬真が皆の前で発表してくれたことが何より嬉しかった。自分はとても幸せ者だ。
 彼との恋愛は、きっとこの先、数々の困難が待ち受けているだろう。けれども、彼と手を取り合って乗り越えていける気がした。彼と出会って、自分は強くなることができたから。

 芽衣は立ち上がる。テレビから手を振ってくれている冬真に、幸せそうな笑顔で手を振り返した。


【おわり】