俺の電話が着信した。スマホの画面を確認し、部屋の外へ出た。少し部屋を離れてから電話に出る。
「もしもし」
「涼介?なんでLINE見ないのよぉ」
電話の相手は梨花。俺の彼女だ。シーズンスポーツサークルに所属している。
「悪い。今まで滑ってたから」
そう言った俺だが、実は梨花からメッセージが入っている事は知っていた。知っていながら放置していた。まあ、滑っていたのは本当なので、嘘をついたわけではないが。
「涼介、そっちに行くって私に言ってなかったよね?なんで言ってくれないの?」
「え?あ、悪い。急に決まったから」
「急にって……まあいいわ。あのね、私たちは今夜が最後の夜だから、友達が気を遣ってくれて部屋を空けてくれるの。だからこっちに来ない?」
梨花は、最後は優しい、甘い声になって言った。誘っているのだ。いつもなら誘われれば行っただろう。どうでもいいと思いながら、断る理由を考えるのも面倒だから。でも今は……雪哉の顔が浮かんだ。よく分からんが、今女を抱く気には到底なれない。
「あー、本当に悪いんだけど、こっちは抜けらんないから」
断ってしまった。
「……うそ。もしかして涼介、そっちに好きな人でも見つけたわけ?だから急にそっちに乗り替えたってわけ?」
梨花はちょっと激高し始めている。
「落ち着けって。そんなんじゃないよ」
「じゃあ、私がそっちに行くから!」
「いや、こっちは5人部屋だから無理だよ。明日、帰り道気を付けて」
「このまま終わりなんてイヤよ!涼介」
梨花はまだ何か言っていたが、俺は電話を切った。もう、どうでも良くなった。こいつとも終わりだな。元々どうでもいいのだ。本当に梨花には悪いけど。
 俺は女に執着した事はない。何となく、断るのが面倒だから誘われると付き合うだけだ。でも、何だか今は梨花と会いたくなかった。断るのが面倒なんじゃなくて、梨花と恋人ごっこをする事が面倒だった。

 「いいだろ」
「ダメだよ」
「いいじゃん、雪哉」
「やーだ」
俺が廊下の奥で電話をして、戻ろうとしたらこんな声が聞こえてきた。ちょっと小声で話しているようだ。そして、部屋へ戻る途中でそいつらの前にさしかかった。すると、それはなんと神田さんと雪哉だった。
「あれ?」
俺が驚いて声を上げると、2人はもっとびっくりしていた。
「涼介、どうした?」
神田さんが言った。
「ちょっと電話。どうかした?なんか言い争ってたみたいだけど」
俺が言うと、2人は顔を見合わせた。
「ううん、何でもないよ」
雪哉が言って笑った。
「そうだよ、争ってなんかないよ」
神田さんも笑った。
「そう?ならいいけど」
「部屋に戻ろう!」
雪哉が俺にそう言って、
「じゃね、バイバイ!」
と神田さんに手を振った。いつもニコニコしている雪哉。その笑顔は好きなんだけど、なーんかこう、雪哉の歪んだ顔とか、泣き顔とかも見てみたいような。うわ、俺変態じゃんか。何考えてるんだ俺は。怖い怖い。