また、あの子が弁当を持って目の前にやってきた。
「はい、今日のお弁当」
そう言ってニッコリ笑った友加里。弁当箱を持った指には、複数の絆創膏が貼ってある。
「指、どうした?包丁で?」
俺が聞くと、
「1つはそう。その他はやけど」
そう言うと、友加里はてへっと笑った。
あの夜―涼介と3人でカラオケに行ったあの日以来、友加里は何かと俺につきまとっている。あの夜はあからさまな色仕掛けをしてきたが、俺がそれに乗らなかった為、それ以後色仕掛けは一切してこない。その代わり、こうして毎週俺が大学へ行く日には手作りの弁当を持ってくるようになった。
味はまあまあ。形などはイマイチ。手の絆創膏はしょっちゅうで、どう見ても料理は不慣れだ。自分の弁当だって作った事があったかどうか。それなのに、なぜか俺の為に作ってくるのだ。
「どう?美味しい?」
俺が食べるのを正面からじっと見ていた友加里は、俺が何も言わないので痺れを切らしてそう聞いてきた。
「うーん、まあまあかな」
俺が正直に言うと、
「そっか、まあまあか」
落ち込んだのか何とも思っていないのか、全く分からないリアクション。この女なら、ひどーい、とか、美味しいでしょ~とか、そんな甘えたリアクションをしてきそうなものなのに、ただポーカーフェイスで頬杖をついてこちらを見ている。黙っているとけっこうな美人だ。
「ごちそうさま」
食べ終わり、箸を箸入れに入れると、友加里は弁当箱などをさっと取って自分のバッグにしまいこんだ。本来なら俺が持って帰り洗って返すべきところだが、一週間も預かるのもあれかなと思ってそのまま渡してしまう。
「あのさ、なんでこんな事してくれんの?」
俺も頬杖をついて、そう聞いてみた。
「こんな事って?」
「弁当を作ってくれる事」
「ああ」
友加里はちょっと考えてから、
「どうしてだと思います?」
ニヤッとしながら逆に聞いてきた。ずるいな。
「俺の事が、好きだから?」
直球でそう言うと、
「正解」
友加里はそう言って静かに笑う。うーん調子が狂う。最初の印象とまるで違うじゃないか。
夏休みになり、大学には行かなくなった。弁当もなし……かと思いきや、とんでもない女だった、あの友加里は。
就活が本格化して、午前と午後に会社を回る日が何日かあった。友加里はその日を教えろと言う。まさかと思ったら、やっぱりその日に弁当を作り、俺の元へ届けに来たのだ。正直、初めて行く場所でどんな店があるか分からない。だが、弁当を広げられる公園などがあるかどうかも分からない。次は持って来なくていいと何度も言ったのだが、友加里は食べられる場所まで調べ尽くしてやってくる。
あまりにしつこくつきまとうのに、当たりは至ってシンプル。せっかくここまで来たのに、ただ弁当を食べさせるだけでいいのかよ、とこちらが心配になってくる。だからと言って勝手にやっている事だから、何かお礼をするのもお門違いだし。
「一応聞くけど、どんな見返りを求めているのかな?」
ある日、弁当を食べながら聞いてみた。
「え?見返り?」
「そう。何か欲しい物があって、わざわざこうやって弁当を届けにくるんだろ?」
「お弁当、どうですか?」
「ん?ああ、だいぶマシになったな。コンビニ弁当よりは美味いよ」
俺がそう言ったら、
「今ので見返り、もらいました」
友加里は満面の笑みを浮かべた。おっと、うっかり見とれるところだった。危ない危ない。俺には雪哉がいるんだから。
「はい、今日のお弁当」
そう言ってニッコリ笑った友加里。弁当箱を持った指には、複数の絆創膏が貼ってある。
「指、どうした?包丁で?」
俺が聞くと、
「1つはそう。その他はやけど」
そう言うと、友加里はてへっと笑った。
あの夜―涼介と3人でカラオケに行ったあの日以来、友加里は何かと俺につきまとっている。あの夜はあからさまな色仕掛けをしてきたが、俺がそれに乗らなかった為、それ以後色仕掛けは一切してこない。その代わり、こうして毎週俺が大学へ行く日には手作りの弁当を持ってくるようになった。
味はまあまあ。形などはイマイチ。手の絆創膏はしょっちゅうで、どう見ても料理は不慣れだ。自分の弁当だって作った事があったかどうか。それなのに、なぜか俺の為に作ってくるのだ。
「どう?美味しい?」
俺が食べるのを正面からじっと見ていた友加里は、俺が何も言わないので痺れを切らしてそう聞いてきた。
「うーん、まあまあかな」
俺が正直に言うと、
「そっか、まあまあか」
落ち込んだのか何とも思っていないのか、全く分からないリアクション。この女なら、ひどーい、とか、美味しいでしょ~とか、そんな甘えたリアクションをしてきそうなものなのに、ただポーカーフェイスで頬杖をついてこちらを見ている。黙っているとけっこうな美人だ。
「ごちそうさま」
食べ終わり、箸を箸入れに入れると、友加里は弁当箱などをさっと取って自分のバッグにしまいこんだ。本来なら俺が持って帰り洗って返すべきところだが、一週間も預かるのもあれかなと思ってそのまま渡してしまう。
「あのさ、なんでこんな事してくれんの?」
俺も頬杖をついて、そう聞いてみた。
「こんな事って?」
「弁当を作ってくれる事」
「ああ」
友加里はちょっと考えてから、
「どうしてだと思います?」
ニヤッとしながら逆に聞いてきた。ずるいな。
「俺の事が、好きだから?」
直球でそう言うと、
「正解」
友加里はそう言って静かに笑う。うーん調子が狂う。最初の印象とまるで違うじゃないか。
夏休みになり、大学には行かなくなった。弁当もなし……かと思いきや、とんでもない女だった、あの友加里は。
就活が本格化して、午前と午後に会社を回る日が何日かあった。友加里はその日を教えろと言う。まさかと思ったら、やっぱりその日に弁当を作り、俺の元へ届けに来たのだ。正直、初めて行く場所でどんな店があるか分からない。だが、弁当を広げられる公園などがあるかどうかも分からない。次は持って来なくていいと何度も言ったのだが、友加里は食べられる場所まで調べ尽くしてやってくる。
あまりにしつこくつきまとうのに、当たりは至ってシンプル。せっかくここまで来たのに、ただ弁当を食べさせるだけでいいのかよ、とこちらが心配になってくる。だからと言って勝手にやっている事だから、何かお礼をするのもお門違いだし。
「一応聞くけど、どんな見返りを求めているのかな?」
ある日、弁当を食べながら聞いてみた。
「え?見返り?」
「そう。何か欲しい物があって、わざわざこうやって弁当を届けにくるんだろ?」
「お弁当、どうですか?」
「ん?ああ、だいぶマシになったな。コンビニ弁当よりは美味いよ」
俺がそう言ったら、
「今ので見返り、もらいました」
友加里は満面の笑みを浮かべた。おっと、うっかり見とれるところだった。危ない危ない。俺には雪哉がいるんだから。



