突然の伊藤のカミングアウトに、俺は何と返したらいいのか分からなかった。ただ口をパクパクさせていたら、人が来たのでその話はそこで終わりになった。
ゲイにはゲイが分かるのか?俺が雪哉を好きになったのは、雪哉がゲイだったからなのだろうか。そんなの分からない。雪哉以外の男に魅力を感じた事がないのだから。かと言って、今や女性にも魅力は感じない。その意味では男も女も同じだ。好きな人以外には興味がない。
ちょっとドジな伊藤に気持ちが和んでいた俺だが、和んでばかりもいられなくなった。自分をゲイだと言った伊藤は、それ以降も特に変わりはなかった。俺も扱いを変えないようにしていた。変わらずに接しているつもりだ。だが、出来ているのかどうか分からない。
1ヶ月が経ち、新人の研修期間も終わりが来た。伊藤といつも一緒に仕事をしていたが、これからはそれぞれ別々に働く事になる。
「お前もこれからは一人前だな。よろしく頼むよ」
「はい、今までありがとうございました」
伊藤が俺にお辞儀をする。そのお辞儀は、教えた通りの正しいお辞儀だった。
「よしよし、大丈夫だな。あまりあちこちぶつけないようにしろよ」
俺がそう言うと、真面目だった伊藤の態度が急にふにゃっと砕けて、
「えー、それを言いますか先輩」
俺の腕をバンバンと叩いた。
打ち上げと称して、俺の部屋で飲み会を開いた。と言っても、伊藤と2人で。
「まあ、お前のお陰で楽しかったよ。おっちょこちょいなお前のお陰で癒やされたっつうか」
俺も業務中とは違って、だいぶ砕けた態度になって言った。ビールを飲みながら、自分のベッドに寄りかかる。
「先輩、傷心ですか?ハートブレイク、失恋?」
伊藤が変な事を言う物だから、思わずビールでむせた。
「ゲホッゲホッ、なんだって?ゲホゲホ」
「大丈夫ですか?だから先輩、失恋中なんですか?」
一瞬考えて、まあ隠す必要もないと思い、
「まあ、な」
認めた。
「やっぱり。その相手は男の人なんですね」
「うん、そう」
「フラれたんですか?」
「まあ、そうなるかな。あいつ、俺の事信用してくれなくてさ。あいつが留学する時に別れた。待ってるって言ったのに、連絡もつかなくなって……」
それ以上はしゃべれなかった。言い続けたら、泣いてしまいそうだ。
「情けねえな、俺」
そう言って、切り上げようとした。
「先輩、すっごくモテるのに勿体ないですよ。元彼の事は忘れて、新しい恋を探したらどうですか?」
だが、伊藤は話を続けるらしい。
「探すって言ってもなあ。もう誰にも興味ないんだよ。男でも女でも」
俺がそう言うと、
「僕じゃダメですか?」
伊藤がそんな事を言った。
「は?」
「僕で良ければ、元彼の代わりになりますよ。とりあえず、先輩がゲイなのかどうか、試してみましょうよ」
伊藤はそう言うと、俺にキスをした。
酒に酔っている事もあって、それほどビックリしなかった。というか、そうする事に違和感はなかった。ただ、それが嬉しいとも、もっとしたいとも思わなかった。ただただ、雪哉にもっと会いたくなった。あいつと口づけを交わしたい。それが叶わないなら、そういうのは、もういいかな。俺は。
「どうでしたか?」
伊藤が俺を見つめてそう聞いてきた。
「悪いけど、何も感じないな」
「……そう、ですか。残念」
伊藤はそっぽを向いてビールをグビッと飲んだ。ちょっと気の毒になって、抱きしめようかと思ったが、変に期待を持たせてもいけないと思い直し、辞めた。その代わり、伊藤の頭をポンポンと軽く叩いた。
ゲイにはゲイが分かるのか?俺が雪哉を好きになったのは、雪哉がゲイだったからなのだろうか。そんなの分からない。雪哉以外の男に魅力を感じた事がないのだから。かと言って、今や女性にも魅力は感じない。その意味では男も女も同じだ。好きな人以外には興味がない。
ちょっとドジな伊藤に気持ちが和んでいた俺だが、和んでばかりもいられなくなった。自分をゲイだと言った伊藤は、それ以降も特に変わりはなかった。俺も扱いを変えないようにしていた。変わらずに接しているつもりだ。だが、出来ているのかどうか分からない。
1ヶ月が経ち、新人の研修期間も終わりが来た。伊藤といつも一緒に仕事をしていたが、これからはそれぞれ別々に働く事になる。
「お前もこれからは一人前だな。よろしく頼むよ」
「はい、今までありがとうございました」
伊藤が俺にお辞儀をする。そのお辞儀は、教えた通りの正しいお辞儀だった。
「よしよし、大丈夫だな。あまりあちこちぶつけないようにしろよ」
俺がそう言うと、真面目だった伊藤の態度が急にふにゃっと砕けて、
「えー、それを言いますか先輩」
俺の腕をバンバンと叩いた。
打ち上げと称して、俺の部屋で飲み会を開いた。と言っても、伊藤と2人で。
「まあ、お前のお陰で楽しかったよ。おっちょこちょいなお前のお陰で癒やされたっつうか」
俺も業務中とは違って、だいぶ砕けた態度になって言った。ビールを飲みながら、自分のベッドに寄りかかる。
「先輩、傷心ですか?ハートブレイク、失恋?」
伊藤が変な事を言う物だから、思わずビールでむせた。
「ゲホッゲホッ、なんだって?ゲホゲホ」
「大丈夫ですか?だから先輩、失恋中なんですか?」
一瞬考えて、まあ隠す必要もないと思い、
「まあ、な」
認めた。
「やっぱり。その相手は男の人なんですね」
「うん、そう」
「フラれたんですか?」
「まあ、そうなるかな。あいつ、俺の事信用してくれなくてさ。あいつが留学する時に別れた。待ってるって言ったのに、連絡もつかなくなって……」
それ以上はしゃべれなかった。言い続けたら、泣いてしまいそうだ。
「情けねえな、俺」
そう言って、切り上げようとした。
「先輩、すっごくモテるのに勿体ないですよ。元彼の事は忘れて、新しい恋を探したらどうですか?」
だが、伊藤は話を続けるらしい。
「探すって言ってもなあ。もう誰にも興味ないんだよ。男でも女でも」
俺がそう言うと、
「僕じゃダメですか?」
伊藤がそんな事を言った。
「は?」
「僕で良ければ、元彼の代わりになりますよ。とりあえず、先輩がゲイなのかどうか、試してみましょうよ」
伊藤はそう言うと、俺にキスをした。
酒に酔っている事もあって、それほどビックリしなかった。というか、そうする事に違和感はなかった。ただ、それが嬉しいとも、もっとしたいとも思わなかった。ただただ、雪哉にもっと会いたくなった。あいつと口づけを交わしたい。それが叶わないなら、そういうのは、もういいかな。俺は。
「どうでしたか?」
伊藤が俺を見つめてそう聞いてきた。
「悪いけど、何も感じないな」
「……そう、ですか。残念」
伊藤はそっぽを向いてビールをグビッと飲んだ。ちょっと気の毒になって、抱きしめようかと思ったが、変に期待を持たせてもいけないと思い直し、辞めた。その代わり、伊藤の頭をポンポンと軽く叩いた。



