朝日が雪原に反射して、眩しさに思わず目をつぶった。1つ伸びをしてホテルの入り口へ向かう。今日もまずはチェックアウトのお客様の対応の為、ホテルのフロントに立つ。
 俺がリゾートホテルに就職して8ヶ月が経つ。初めてのスキーシーズンがやってきて、いわゆるかき入れ時に入った。インカムをつけ、ビシッと制服を着てフロント業務に当たる。忙しいが楽しい。俺にはこの仕事がすごく肌に合っているような気がしている。
「またのお越しをお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
きびきびとしたお辞儀をして、お客様を送り出す。笑顔を向けると、お客様も笑顔になる。
「また来ます。ありがとう」
「お世話になりました」
にこやかに、お客様がそう言ってここを出る。これからスキーで一滑りしてから帰るだろうから、行ってらっしゃいと言う。ここは、関東でも有名なスキー場。目の前のゲレンデは、お子様連れが遊べるようななだらかな斜面。歩いて行かれるところにリフトがあり、一番上まで行けば長い上級者コースを滑る事が出来る。俺も滑ったが、相当ハードな斜面だ。
 チェックアウトのピークが過ぎると、クリーニング作業。午後はチェックインラッシュ。お部屋へのご案内や荷物運び、お風呂やお食事のサポート等。朝から夜まで仕事は続く。
 忙しくしていると、余計な事を考えずに済むからいい。時間が出来ると、どうしても考えてしまうのだ。恋人の事を。もはや恋人でもないのか。あいつとは1年と8ヶ月くらい会っていない。あの、空港で見送った姿が最後になるなんて。ほら、すぐこうやってくよくよと考えてしまうのだ。
 フロントに立っている時もそうだ。次々とお客様が来て忙しくしている時はとても楽しいのに、人の往来が減って、ただロビーを眺めている時などはどうしようもない。ロビーを行き交う人を眺めていると、時々ハッとしてしまうのだ。
「あ、雪哉?」
似ている人を見かけて、心臓がドキンと鳴る。時にはホテルを出て行く人を追いかけて、外に出て確かめた事もあった。それで、何度違うと確認した事か。それでもやっぱり何度も見つけてしまう。雪哉の影を。
 ましてや冬がやってきてしまった。スキーをしている客を見ると、切なさで胸がつぶれそうだ。それでも俺はここに、スキー場にしがみつく。ここにいたら、いつか雪哉が本当に現れるのではないか、そんな考えが頭を離れないから。何年でも待つ。ここで。