それから、俺と雪哉は普通に過ごした。いつも通り、雪哉から電話も来るし、週に一度会って愛し合うし、何も変わらなかった。この間の留学の話は、まるで無かったかのように毎日が過ぎた。だんだん、あれは夢だったんじゃないかと思うほどに、以前と変わらない雪哉がいた。
 それでも、いつも通り会っていても、いつもと違う何かを感じる事がある。そうだ、やっぱり夢なんかじゃない。だって、そんな事絶対に言ってくれなかった雪哉が、
「涼介、大好きだよ」
なんて、突然言ってくる事があるのだから。そんな事を言われると泣きそうになる。だから黙って抱きしめる。どうか、時が止まってくれ。このまま、ずっとこのままでいたい。
 だが、残酷にも時は過ぎる。
 2月にもう一度スキー合宿があった。検定試験を受けられる合宿。俺も2級を取る事が出来た。雪哉はとっくに1級を取っているらしい。その合宿の最後に、雪哉が言った。
「実は、僕はもうすぐアメリカに行くので、例年よりも早いんだけど、部長を交代したいと思います」
そして、新3年生を新部長として指名していた。アメリカに行くと聞いて、部員達は驚いた様子だったが、新部長の件は了承された。そう、やっぱり雪哉はアメリカに行ってしまうのだ。しかも、もう少しで!
 嘘だ、嘘だ、信じられない。いいや、そうだよ。雪哉がアメリカに行くのは本当だが、俺たちが別れるというのは嘘だったのかもしれない。大丈夫だ、2年半くらい待てる。俺には、恋人はいつもいたかもしれないが、好きな人はずっといなかったのだから。何年も探していた。ずっと待っていた。やっと見つけたのだ。そう簡単に手放せるはずがない。