腐女子の出現ですっかり話の腰を折られてしまった。雪哉の留学という、重大な話の途中だったのに。合宿中はオチオチ話もしていられないので、とりあえず保留にして、合宿を全うした。
合宿所からそれぞれ実家などへ帰る。その途中で、俺と雪哉は車を止めて話す事にした。関東は、山を下りれば雪もない。寒さもさほどではない。
俺たちは、高速道路のサービスエリアのカフェでホットコーヒーを飲みながら話をする事にした。
「留学の事、いつから考えてたの?」
俺が努めて優しく聞くと、
「考え始めたのは、涼介と出会う前からだよ。色々調べて動き出したのは、数ヶ月前から」
雪哉が言った。
「そっか。もしかして、だからお前、俺にデビューの話が来た時、かなり乗ってたのか?」
ちょうど、そんな頃だから。
「うん。涼介がデビューしてくれたら、離れていても、いつも涼介の歌が聴けるし、テレビや動画で観る事も出来るなーって思って」
それで、思わず騙されそうになったわけだな。俺も騙されかけたけど。
離れていても、か。離れて……実感が沸かない。2年間。本来なら、これから1年間は一緒にいられるはずだった。でも、その後就職したら離ればなれになったかもしれない。そうなったら、俺たちはどうするのだろう。考えた事がなかった。
「2年……長いんだろうな。何だか実感が沸かないけど……でも俺、待ってるよ。雪哉の帰りを待ってる。時々ビデオ通話も出来るし」
最初はショックだと思ったけれど、2年なんてあっという間に過ぎるような気がした。ビデオ通話すればいい、と思った。
「でも、涼介」
雪哉は静かに言った。
「涼介はそんなに長い間、恋人が側にいなかった事なんてないでしょ」
雪哉はコーヒーに視線を落したまま、そう言った。
「え、どういう意味?」
急に胸がザワザワして、慌てて問い返した。
「涼介は小学生の頃から、恋人がずっといたんでしょ?途切れずに」
「ああ、まあ。いや、お前をゲットする前はしばらくいなかったぞ」
「あれは、半年くらい?」
「いや、8ヶ月だよ」
「そうか、すごいね。でも、なんだかんだ僕に手を出していたよね」
「え、ああ、まあ、多少はね」
キスの事かな?
「それで、これから2年もの間、側に恋人がいなくても大丈夫だと思う?」
何を言っているんだ、こいつは。
「そりゃあ、辛いだろうけどさ。たまには会えるだろ?」
俺がそう言うと、雪哉はゆっくりと首を横に振った。
「2年じゃなくて2年半なんだけど、その中にすごくたくさん詰め込んでるんだ。途中で帰国している暇はないし、涼介だってアメリカまで来るのは大変だろ?お金もかかるし」
「まあ、そうだけど」
だから、何だって言うんだ?我慢するしか無いんだろ?何を言おうとしているんだよ、お前。
「無理だよ。2年半、会わずにつき合い続けるのは」
「無理じゃないよ!何言ってるんだよ。待つって言ってるだろ」
「待たせて、無理させて、嫌われるのが嫌なんだ。勉強に集中しなくちゃいけないのに、そういう事、気にしていられないんだよ!」
雪哉は、始めは落ち着いていたのに、だんだんと激高してきた。そして、席を立ってカフェを出ようとする。俺も慌てて荷物を掴んだ。因みに、コーヒーは先払いだったので、支払いは済んでいる。
「待てって」
駐車場の車の方へずんずん歩いて行く雪哉を、俺は追いかけた。そして、車の手前で腕を掴んだ。
「雪哉、何が言いたいんだ?俺は留学の邪魔だから、別れるって言うのか?」
俺がそう言うと、雪哉は振り返った。その顔を見て驚いた。涙がポロポロと流れていたから。
「雪哉……」
思わず、その場で抱きしめた。雪哉も俺にしがみつくように腕に力を入れた。
「ごめん、ごめんなさい。僕は身勝手だ。本当は好きなのに、諦めたくないのに、でも、ダメなんだ。つき合ったまま、心配しながら留学するのは、無理なんだ」
俺の胸に向かって、雪哉は叫ぶように言った。そして、唐突に俺の事を放すと、手で涙をぬぐい、自分の車の方へ走っていった。乗り込んだかと思うと、車を発進させてしまった。俺は、置いてきぼりにされてしまった。
合宿所からそれぞれ実家などへ帰る。その途中で、俺と雪哉は車を止めて話す事にした。関東は、山を下りれば雪もない。寒さもさほどではない。
俺たちは、高速道路のサービスエリアのカフェでホットコーヒーを飲みながら話をする事にした。
「留学の事、いつから考えてたの?」
俺が努めて優しく聞くと、
「考え始めたのは、涼介と出会う前からだよ。色々調べて動き出したのは、数ヶ月前から」
雪哉が言った。
「そっか。もしかして、だからお前、俺にデビューの話が来た時、かなり乗ってたのか?」
ちょうど、そんな頃だから。
「うん。涼介がデビューしてくれたら、離れていても、いつも涼介の歌が聴けるし、テレビや動画で観る事も出来るなーって思って」
それで、思わず騙されそうになったわけだな。俺も騙されかけたけど。
離れていても、か。離れて……実感が沸かない。2年間。本来なら、これから1年間は一緒にいられるはずだった。でも、その後就職したら離ればなれになったかもしれない。そうなったら、俺たちはどうするのだろう。考えた事がなかった。
「2年……長いんだろうな。何だか実感が沸かないけど……でも俺、待ってるよ。雪哉の帰りを待ってる。時々ビデオ通話も出来るし」
最初はショックだと思ったけれど、2年なんてあっという間に過ぎるような気がした。ビデオ通話すればいい、と思った。
「でも、涼介」
雪哉は静かに言った。
「涼介はそんなに長い間、恋人が側にいなかった事なんてないでしょ」
雪哉はコーヒーに視線を落したまま、そう言った。
「え、どういう意味?」
急に胸がザワザワして、慌てて問い返した。
「涼介は小学生の頃から、恋人がずっといたんでしょ?途切れずに」
「ああ、まあ。いや、お前をゲットする前はしばらくいなかったぞ」
「あれは、半年くらい?」
「いや、8ヶ月だよ」
「そうか、すごいね。でも、なんだかんだ僕に手を出していたよね」
「え、ああ、まあ、多少はね」
キスの事かな?
「それで、これから2年もの間、側に恋人がいなくても大丈夫だと思う?」
何を言っているんだ、こいつは。
「そりゃあ、辛いだろうけどさ。たまには会えるだろ?」
俺がそう言うと、雪哉はゆっくりと首を横に振った。
「2年じゃなくて2年半なんだけど、その中にすごくたくさん詰め込んでるんだ。途中で帰国している暇はないし、涼介だってアメリカまで来るのは大変だろ?お金もかかるし」
「まあ、そうだけど」
だから、何だって言うんだ?我慢するしか無いんだろ?何を言おうとしているんだよ、お前。
「無理だよ。2年半、会わずにつき合い続けるのは」
「無理じゃないよ!何言ってるんだよ。待つって言ってるだろ」
「待たせて、無理させて、嫌われるのが嫌なんだ。勉強に集中しなくちゃいけないのに、そういう事、気にしていられないんだよ!」
雪哉は、始めは落ち着いていたのに、だんだんと激高してきた。そして、席を立ってカフェを出ようとする。俺も慌てて荷物を掴んだ。因みに、コーヒーは先払いだったので、支払いは済んでいる。
「待てって」
駐車場の車の方へずんずん歩いて行く雪哉を、俺は追いかけた。そして、車の手前で腕を掴んだ。
「雪哉、何が言いたいんだ?俺は留学の邪魔だから、別れるって言うのか?」
俺がそう言うと、雪哉は振り返った。その顔を見て驚いた。涙がポロポロと流れていたから。
「雪哉……」
思わず、その場で抱きしめた。雪哉も俺にしがみつくように腕に力を入れた。
「ごめん、ごめんなさい。僕は身勝手だ。本当は好きなのに、諦めたくないのに、でも、ダメなんだ。つき合ったまま、心配しながら留学するのは、無理なんだ」
俺の胸に向かって、雪哉は叫ぶように言った。そして、唐突に俺の事を放すと、手で涙をぬぐい、自分の車の方へ走っていった。乗り込んだかと思うと、車を発進させてしまった。俺は、置いてきぼりにされてしまった。



